なぜ「キャリア戦略」が重要になったのか?|キャリア戦略論② - ATLAS(アトラス)〜未来をつくるリーダーへの就活キャリアサイト〜
なぜ、「キャリア戦略」が重要になったのか?

前記事では「キャリア戦略とは何か」ということについて解説をしました。皆さんも、キャリア戦略が人生にもたらすインパクトの大きさを感じたのではないでしょうか。

しかし、不思議なことに、今まで学校や親世代の人から「キャリア戦略を立てたほうが良い」というアドバイスを聞く機会は、ほとんどなかったと思います。

なぜ、現代においては、キャリア戦略を描き、主体的にキャリアをつくるということが大事になったのでしょうか?

その背景には、この20~30年で起こった「人材市場の発達」や「終身雇用制度の崩壊」があります。

本記事では、キャリア戦略が重要になった理由について解説していきたいと思います。長きにわたり、“横並び”といわれてきた日本の社会も、大きな差がつく時代に入っているのです。

人材市場とは何か

人材市場とは何か

「人材市場」とは、端的にいえば「働きたい人」と「人材を求める企業」がマッチングされる場です。ポジションや年収、仕事内容、必要なスキルや経験など、双方の条件が折り合えば、入社が決まります。

その様子は、株の売買が行われている証券市場とよく似ています。高いスキルや経験値を持った人材は、多くの企業の間で争奪が行われ、市場価値が上がり、好条件を得ます。プロ野球選手のようだともいえるでしょう。

人材市場からの評価が高い人は、「高いポジション」や「高い年収」を得られるだけではありません。評価が高ければ、自分が「好きな仕事」をできる企業に入社することも可能です。また、仮に入社した企業が倒産しても、他社へ転職することが容易なので「雇用が安定」します。場合によっては、勤務時間や働く場所についても、企業に交渉することが可能なので「働き方の自由度」も高くなります。

私たちのご相談者の中でも高いスキルを持つ方であれば、育児中の女性が全社で初となる在宅勤務を認められたり、介護中の男性が午後5時終業の時短勤務ができたりするなどと、ライフステージに合った働き方をかなえているケースがみられます。

発達する人材市場

発達する人材市場

しかし、以前は人材市場が、これほどまでは十分に発達していませんでした。そのため、新卒で入った大企業よりも恵まれた企業に転職することは難しかったのです。その結果「良い大学を卒業し、良い企業に入社して、長く勤めること」が多くの方にとって、適切なキャリア設計となっていました。キャリア設計が重要だと言う60代、70代の方が少ない理由でもあります。

そのような中、1990年代ごろから人材市場の様子が徐々に変わってきました。優良な外資系企業が、魅力的な転職先として台頭してきたのです。日本国内での事業拡大に伴って、即戦力人材を高待遇で採用したため、大手企業から優秀な人材が外資系企業に流出するようになりました。

特に、年齢と関係なく力があれば高いポジションで処遇する実力主義が、日本企業の年功序列にうんざりしていた優秀な若手の考えにフィットしました。

魅力的な企業の経験者採用が増えることで、優れた人材が人材市場に出るようになり、それを受けて企業はますます経験者採用に力を入れる――この連鎖が、人をひきつける転職機会を増大させ、人材市場を大きく発展させました。

今では、外資系企業、ベンチャー企業、コンサルティングファーム、投資銀行、PEファンドのみならず、日本を代表するような大企業も即戦力人材を経験者採用で獲得しようと尽力しています。

人材市場の発達が、キャリア戦略をつくる意義を高めた

人材市場の発達が、キャリア戦略をつくる意義を高めた

どんなに優れたキャリア戦略をつくっても、それを実現し得る良い転職先がなければ、絵に描いた餅となってしまいます。人材市場が発達して、魅力的な選択肢が豊富になった現代だからこそ、キャリア戦略をつくる意義が高まったのです。

人材市場の発達は、ビジネスリーダーのキャリア形成に対して、以下のような変化をもたらしました。

(1)主体的にキャリア設計できるようになった

人材市場が未発達であった時代には、有望な仕事の選択肢はほぼ社内に限られていました。

しかし、社内での異動希望がかなうかどうかは、“会社まかせ”や“運まかせ”となります。そのため、キャリア形成において、自分の意思でコントロールできる要素が少なく、受け身にならざるを得ませんでした。

一方、現代では、スキルや実績があれば、自分の好きな仕事をできる環境を外部に求めることも可能になりました。人材市場の発達により、主体的にキャリア形成できるようになったのです。

(2)若くして、高いポジションや高い年収を得られる機会が急増した

優秀な人材は企業間で争奪戦となるため、若くても、高いポジションや高い年収で転職する機会を得られるようになりました。

20代で数千万円の年収となる外資系投資銀行、30代前半で2000万円を超える外資系Tech企業やコンサルティングファーム、ベンチャー企業の幹部ポジションなど、驚くような高額の年収を提示する企業がたくさんあります。また昨今では、日系企業であっても、外部から経験者採用した30代の優秀な人材に、社長や役員を任せようとする企業が現れています。

このように、若くして高いポジションや高い年収を得られる機会が急増したことも、人材市場の発達による大きな変化です。高いポジションに就くためには、年功序列のために長い年月を待たなければいけないという、従来のキャリア設計の前提は過去のものとなりつつあります。

終身雇用制度の崩壊により、重要性が増すキャリア戦略

終身雇用制度の崩壊により、重要性が増すキャリア戦略

終身雇用制度の崩壊もまた、キャリア戦略の重要性を高める一因となっています。

高度経済成長期以降、多くの企業が順調に業績を伸ばし、長期間にわたり安定した雇用を従業員へ提供することができました。しかし近年は、日本屈指の大手メーカーでの大規模なリストラや、外資系ファンドによる日本企業の買収などの例を引き合いに出すまでもなく、大手企業でも終身雇用制度は崩壊しつつあります。

さらに、AmazonやApple、Alphabetなどの巨大IT企業との業界の垣根を越えた競争が激化していく中で、どのような企業も安泰とはいえないでしょう。

このような時代において、1つの会社に依存したキャリアはリスクが高いといわざるを得ません。

もちろん、これは「必ず転職をしなければいけない」ということでは、全くありません。しかし、不安定な現代においては、企業の大小や業界を問わず、倒産や人員削減のリスクは常に潜んでいます。ゆえに、若いうちからキャリア戦略をしっかりと描き、いざとなれば転職できるように備えておくことがとても大切なのです。

人材市場で評価されるスキルや実績があれば、たとえ勤務先の会社がつぶれたとしても新たなキャリアを歩むことができます。1つの会社をセーフティーネットとする時代から、人材市場をセーフティーネットとする時代になっているのです。

自分のキャリアは自分でデザインする時代へ

自分のキャリアは自分でデザインする時代へ

このように、「人材市場の発達」や「終身雇用制度の崩壊」によって、キャリアのあり方が大きく変わりました。

かつては、転職というと、「上司と馬が合わない」「給料が安い」など現職の不満を解消するために職を変える行為として捉えられていた面があります。
しかし、現代では、自分が求める経験、スキル、収入を得られる環境を、主体的に選択するポジティブなものとして受け止められるようになりました。

もちろん、自分が欲しいスキルや経験を習得するためだけに在職するのは、評価されません。所属する企業でしっかりと価値を生み出し、組織に貢献することは前提となりますのでご留意ください。

このような変化を鑑みると、自分のキャリアを自分でデザインできる「自由」が得られたともいえますし、自分のキャリアを守るために自分でデザインする「責任」を持たざるを得なくなったともいえます。いずれにせよ、自分のキャリアを自分で描くことが、重要な時代を迎えたのは確かでしょう。

キャリア戦略は一朝一夕に設計できるものではありません。ぜひ皆さんには、現代をチャンスにあふれた時代と捉え、早い段階からご自身のキャリアと向き合っていただきたいと思います。

著者

コンコードエグセクティブグループ代表・CEO 渡辺 秀和

2008年、コンコードエグゼクティブグループを設立。外資系戦略コンサルタント、PEファンド、ベンチャーCxOなどへ1000人を越えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援。「日本ヘッドハンター大賞」初代MVPを受賞。2017年に東京大学で開講されたキャリアデザインの授業「キャリア・マーケットデザイン」のコースディレクター。2022年、「キャリア教育プラットフォーム」コンコードアカデミー代表取締役会長就任。 著書 『未来をつくるキャリアの授業』、『ビジネスエリートへのキャリア戦略』は東京大学の教科書に選定された。『新版 コンサル業界大研究』は東大生協本郷書籍部で第1位を獲得。

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