官僚にしか見えない「景色」がある【官と民を両方体験して#02】 - ATLAS(アトラス)〜未来をつくるリーダーへの就活キャリアサイト〜

前回(#1)に引き続き、官僚と民間の双方をご経験された栫井誠一郎さんに、ご自身のキャリア観についてのお話を伺いました。

自分の力で可能性を切り開く、経済産業省での激動の6年間

——経済産業省での6年半の間で様々なお仕事を経験されたとのことでしたが具体的にはどのような仕事を担当されていたのでしょうか?

栫井:2年で1回異動するのが普通なのですが、20代のうちに色々な経験を積んで、視野を広げた上で自分の人生を決めたいと思っていたので、毎年のように異動希望を出していました。その結果、6年半の官僚生活で6個ぐらいの部署に異動しました。相当多い方だと思います。

栫井:まずは省全体を見たいと考え、経済政策全体を取りまとめている司令塔の部署、経済産業政策局というところに行きました。経済成長戦略というんですが、政府や経済産業省全体で推進してる政策の見せ方を工夫し、打ち出していく部署です。その後、人材室、今の人材課に行き、外国人留学生と日本企業のマッチングのプロジェクトを全国で進めたり、内閣官房にいって情報セキュリティルールの整備なども担当していました。国がやってる研究開発プロジェクトに携わってる時期もあり、半導体事業の担当者でした。その時うまくいっていたら日本の半導体産業はもっと発達していたかもしれないですね。

——省庁はしがらみや年功序列などが強いイメージがあったのですが、自分の意見とか希望がどんどん尊重される環境なのでしょうか?

栫井:給与に関しては、基本的には年功序列で、みんな順番に出世して給料もそんなに差がつかない。頑張っている人に何で報いるかと言ったらポストで報いる、そんな感じなんです。ただそのポストの中で本業の時間で何ができるかはどうしても制限があるので、与えられたものをまずは頑張って、その上で空いてる時間に自主的に新しいこと始めてみるのが大事だと思います。実際週末起業みたいなことはこっそりやってました。

——そのようなことに挑戦するモチベーションはどこからきたのですか?

栫井:自分を不幸にさせたくない、自分が自分の事を嫌いな状態が許せないからではないかと思います。新しいことをやりたい、自分のレベルを上げたい。テンションが上がらないなと感じたら、全力でその理由を変えて行きたい、といった感じです。与えられたことをこなす中でも、振る舞い方とか何に時間を使うかなどをうまく組み立てて行ける可能性は全然あります。

——自分次第で色々なことができるのが官僚なんですね。

栫井:そうですね。他の省庁でも自由に政策を提言をできる政策提案の制度というのもありますし、頑張れば使える制度はいろいろあります。

扱う仕事と役割の大きさ、官僚というキャリアの魅力

扱う仕事と役割の大きさ、官僚というキャリアの魅力

——20代前半でもそのような環境に身を置ける官僚の可能性は大きいと感じました。それ以外の官僚という職業の魅力があるとしたら栫井さんは何を挙げられますか?

栫井:そうですね。一つは普通では会えない偉い人と会える点ですね。国の名刺持って会いたいと言った時に断られることはまずないです。最強ですね笑。これは官僚を辞めた後でも大事なアセットになります。起業した時、官僚の時代に知り合った社長さんから仕事をもらえていた時期もあり、すごく助かりました。

二つ目は国だけでしか見えない景色があるところですかね。世の中はどのように動いていて、 法律ができて、産業・市場や社会生活がどのようにできていくのか。世の中の出来事の力学を国の中枢で見ることができるのは他にはないです。人によってはもちろん実際の法律の条文を書いたりします。建築業もよく後に残る仕事と言われますが、ある種法律は究極の後に残る仕事と言えると思います。国でしか見ることが出来ない景色のスケールの大きさが二つ目です。

最後三つ目は視野の広さが身につくことですね。民間企業で働いてるとどうしても得意な業種とか領域とかサービス周辺に視野が限られると思います。ただ、官僚という仕事は限られた市場の中を競うのではなく市場をいかに広げるかを考えるような仕事です。視野が広がった状態から思考がスタートするため、民間企業でのキャリアでは得られない視野の広さや、ユニークな発想が身につきます。自分は官僚と民間を相互に行き来するのがいいと考えていて、そうすればビジネススキルも視野も広い素晴らしい人間になれると思ってます。

——これまで様々なエピソードや官僚の魅力について紹介していただきましたが、その中でも一番印象的な仕事は何でしょうか?

栫井:政策とチームでそれぞれ印象に残っているものがあります。

政策では、2年目の時に担当したアジア人材資金という政策ですね。外国人の留学生で日本の税金をもらって日本の大学に留学している国費留学生という人たちが当時年間で確か2000人いました。彼らは日本で約2年間大学生として生活するため、日本文化に対して理解があり、日本のことが好きな人が多い。当時多くの日本企業が海外展開を推進している時期で彼らへのニーズが大きいと経済産業省として感じていました。ただ、日本の就活システムが特殊過ぎてうまくいかない人が多く、日本で就職する選択肢がなくなり母国に帰る人が多かったのです。それを改善するために全国の大学や企業と協力した事業をしてました。フルタイムは僕だけで1.5人で年間30億円の予算を担当してました。僕が異動して3年ぐらい後に事業仕分けでこのプロジェクトは消えてしまいましたが。ただ撒いた種は全国の大学や会社に残っているのではないかなと思います。

栫井:チームとして印象に残っているのは、3,4年目で内閣官房の情報セキュリティの部署で組んだチームですね。十数人の内、半分以上がが民間企業の課長・部長から来ていただいているチームなのですが、各社からエースが配属されるので、三菱電機の役員に後日なる方や監査法人の個室もちの方など本当に優秀な方々でした。ただ、彼らはあくまで出向なので社会人3年目の僕がプロジェクトをリードする必要がありました。40歳、50歳の民間のエースの方々は人それぞれにカルチャーや哲学を持っていて、ダイバーシティがある。あのチームは本当に大好きで印象が強いです。役人としてのキャリアに加えて民間でのキャリアも磨きたいなという思いが強くなったのはこの経験も大きく影響しました。

官僚からの起業は、経済産業省時代に感じた課題がきっかけ

官僚からの起業は、経済産業省時代に感じた課題がきっかけ

——色々な経験をされた中で官僚を辞め、起業されたのはなぜですか?

栫井:いろいろあるのですが、一番大きいのは死ぬ瞬間に世の中の100万人以上から感謝されるような人になりたいという学生時代からの思いですね。ただ、学生の時は100万人から感謝される死に方の実現方法なんて想像もつかない。ただ、成長欲や好奇心で経済産業省で日々もがくなかで、実は日本社会全体に組織の壁、縦割りのようなことが多いなと6年半で気づいたんです。これは行政だけの課題ではなくて、組織をこえた協力が当たり前になる世の中を実現できたら100万人、いや一億人から感謝される道が待ってるのではないかと思いました。その日本社会のもったいないところを変えるビジネスをしたいと思い、今のPublinkを創業しました。

——官僚をやめて突然起業することに対しては、周りからの反発も大きかったと思うのですが実際はどうでしたか?

栫井:いい質問ですね。両親が鹿児島出身なので、鹿児島に栫井一族がいるのですが、辞める時親戚から大反対されました笑。実は一番尊敬している人は温和でリスペクトしているおじいちゃんなんですけど、人生で一回だけ怒られたのがその時です笑。

——反対されてもなお貫いたのはなぜですか?

栫井:まず、自分が後悔しないためですね。僕がやりたい100万人に感謝されるような仕事となると、経済産業省だけではできない社会保障や教育なども含めて取り組んでいきたいと考えました。そう考えると経済産業省のフィールドの中のトップを目指すより、いろんな組織を繋いでいく人になる方が自分の性格に合っていると感じたんです。

もう一つは官僚時代にしていた週末起業で無力さを感じたことですね。当時4人で週末集まって週末起業をしていたのですが、僕が一番年上だったのにもかかわらず最も使えない人間だったんです。事業計画も作れないし、プログラミングもできない。売れるものを作るという文脈の中において自分の無力さを痛感しました。

——現場に出てみるとやっぱり違うと感じられましたか?

栫井:そうなんですよね。組織の力は経済産業省だととても大きいのですが、逆に20代の自分は組織の外に出ても残る個人の価値を成長させていきたいと思っていました。自分だけでできないことって数多くあるんだなと気づくことができて、このままでは違うと焦りましたし、後押しになったんです。

官民両方を経験し、見つけたのは仕事の本質

官民両方を経験し、見つけたのは仕事の本質

——色々なことを民間で経験したと思うのですが、官僚と民間それぞれを経験した上でも一番ここが違うなというのは栫井さん的に何が大きかったのでしょうか?

栫井:仕事のアウトプットの仕方が違いますね。官僚は法律や社会的な意義が重要視される一方で、ビジネスだと儲かるかどうかが最重要です。組織の作り方や評価の方法が違うので、大きく異なります。お金の扱いで言えば、民間企業に入るとお金を稼ぐ必要があるので顧客ターゲティングとかのマーケティングに注力するし自然とスキルも溜まっていきます。逆に官僚や自治体の行政サイドは政策の方向性を定めて、実現するために如何に合意形成をするかにリソースを割く。本当は国の政策もマーケティングが必要なのですが、売上や利益が存在しないため、残念ながら重要視されないことが多いです。何が求められるかが大きく違って、だからこそ育つスキルも全然違います。

——スキルという話があったと思うのですが、民間官僚それぞれで一番大切なスキルってなんですかね?

栫井:難しくて深い問いですね。ただ僕はどちらも本質は一緒だと思っていて、ビジネスにしても政策にしても「関わる人みんながwin-winになる、ハッピーになる。全体で幸せになるための道筋を実行できるかどうか。」だけだと思います。それが難しいのですが、ビジネスや政策の違いは手段の違いでしかないと思っています。みんなをハッピーにするためには関わる人たちをきちんと把握すること、相手のニーズを理解し、適切なアクションをとる。それができれば官僚や民間の枠は関係ないと思います。どんな分野においてもみんなが幸せになるためのニーズを捉え、適切にアクションを取れるかどうかです。

——少し話が変わるのですが、今のPublinkなど、民間企業で働く中で役に立った官僚時代の経験って何でしょうか?官僚を経ているからこそ実現できたことなどはありますか?

栫井:直接的なところでいうと人脈です。ただ、基本的に多くの人が官僚という肩書きに対して興味があるだけで栫井という個人を気に入ってくれているわけではない。なので官僚として働く中で面白いやつだと感じてもらえるような仕事をすることが大切です。

その他にも先ほど話した自分の人生計画は経済産業省に行かなかったら思いついていないと思います。なので、視野を広げて人生のビジョンの方向性を設計できたのは官僚になれたからと言えますね。

また、スキルでいうとアドリブ力ですかね。すぐに色々な部署を異動するので色々な人とはなしたり講演をする機会が多くて、どんなに偉い相手と話していても全然萎縮しなくなりました。個人差やキャラもあるとは思いますがテニサー3つで身につけたコミュニケーション能力は役立ちました笑。

——やはりテニサーに入ったことは大事だったと思いますか?

栫井:自分が磨きたいと思うスキルや飛び込みたいものがあったらレベルゼロでも物怖じせず飛び込むのが大事だと思います。僕にとってはコミュニケーション能力や大学生の恋愛はレベル0から頑張りましたし、その経験が大事だなと思います。自分のレベルを上げたいと思うのならどんどん挑戦するべきです。

著者

ATLAS

未来をつくるリーダーへの就活キャリアサイト「ATLAS」の編集チーム。

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