「好き嫌い分析」でキャリアビジョンを設定する|キャリア戦略論④ - ATLAS(アトラス)〜未来をつくるリーダーへの就活キャリアサイト〜
「好き・嫌い分析」でキャリアビジョンを設定する

キャリア戦略を考える上で、目指す将来像である「キャリアビジョン」の設定は欠かせません。しかし、ここがたくさんの人の頭を悩ませるポイントでもあります。

「幼い頃に、医師に命を助けられました。それ以来、難病に苦しむ人々を救う医師を目指しています」――というような、熱い志を持ちキャリアビジョンが既に明確な方は心配ないでしょう。

しかし、自分の生きるべき道が定まるほどの強烈な原体験を持っている人は、決して多くはありません。そのような場合、キャリアビジョンは、どのようにして設定すれば良いのでしょうか。

本記事では、コンコードが推奨する「好き・嫌い分析」によるキャリアビジョンの設定方法について紹介したいと思います。

「ブランド」や「就職偏差値」に惑わされない

キャリアのご相談に乗っていると、「ブランド」を過度に重視して、転職先を選ぼうとするビジネスパーソンとお会いすることがあります。また、就職の難易度を意味する「就職偏差値」という言葉がありますが、この就職偏差値が高い企業に入ることを目指す学生も少なくありません。しかし、人生の大半の時間をかけることになる仕事をこのような観点にとらわれて選択するのは、もったいないことです。

たとえば、名門企業として知られるゴールドマン・サックスに入社しても、カバレッジ、プロダクツ、セールス、トレーダー、ストラテジスト、株式アナリスト等々の職種によって、仕事内容はもちろんのこと、後のキャリアも大きく異なっています。

将来は事業会社の経営者になることを目指している場合、企業のM&Aを支援するプロダクツであれば、その経験がいきるでしょう。しかし、セールスやトレーダーなどの職種であれば、金融業界においては素晴らしいキャリアであるものの、経営者という未来にはなかなかつながりません。ブランドのある企業に入社したからといって、自分が目指す将来像に近づけるとは限らないのです。

ブランド志向でキャリアを選定することの危険性は、別の観点からも説明できます。

30年ほど前にブランドのある民間企業と言えば、日本興業銀行(興銀)が代表的な存在でした。名門大学の学生から高い人気を集めた、超難関の企業です。今で言えば、マッキンゼーやゴールドマン・サックスのような位置付けでしょうか。

しかし、今の20代の皆さんには、「興銀」がそのような存在の企業であったことは知られていません。それどころか、興銀という名称すら知らない学生が多いのが実態でしょう。

今や花形となったコンサルティングファームが、キャリアとして高いブランド力を持つようになったのは、ここ二十数年程度です。それ以前は、一部のファームを除き、一般には社名すら知られていませんでした。名門大の学生が数多く入社するようになったITベンチャーは、十数年前には年収が低く、人気企業とはほど遠い存在でした。

このように、ブランドというものは目まぐるしく変化するものです。会社のブランドによって高いステータスを得たと思っても、それがいつまでもつかは“運次第”という要素が強いのです。

もちろん、ブランドが無価値なわけではありません。同じコンサル出身者でも、実力が同じであれば、知名度の低いファームの出身者よりも、マッキンゼー出身者のほうが市場では評価されます。問題なのは、ブランドだけを過剰に重視して就職先や転職先を決めてしまう人が多いということです。

当然のことながら、世間で評価されている企業だということと、自分がやりたい仕事かどうかは直接的には関係がありません。大切なことは、一般論として素晴らしいキャリアをつくることではないのです。

キャリアビジョンは、人生の大半の時間をかけることになる仕事を規定する大切なものです。「今後はA業界が稼げる」とか「B業界がトップ層の学生に人気が高い」といった損得の観点や世間体は、横に置いて考えましょう。キャリアビジョンを考える上では、自分の中の価値観を軸にしていただければと思います。

「入学試験」と「キャリア選択」は大きく異なる

それでは、キャリアビジョンはどのように考えれば良いのでしょうか。

学生の皆さんがよく知る意思決定の岐路、選抜の機会としては、「入学試験」があります。「入学試験」と「キャリア選択」は、共に人生の重要な節目です。しかし、その性質は大きく異なっているため、注意が必要です。

入学試験では、入試科目が定められています。入試科目が、英語、数学、国語、社会、理科であれば、それらを満遍なく勉強し、総合点で合格を目指すことになります。嫌いな教科でも、我慢してやるしかありません。多少の自由度があるとしても、数学が受験科目にない大学を選ぶ、あるいは、社会や理科の試験で世界史や化学を選択できるといった程度です。

一方、キャリアの選択肢は膨大にあります。仕事を紹介する図鑑でも数百単位で掲載されていますが、それでも網羅しきれていない職業もあります。そして、それらの中から、自分が自由に選択して構わないのです。場合によっては、世の中にない仕事をつくってしまっても良い。しかも、その好きな仕事に集中して良いのです。満遍なく、あらゆるスキルや知識を習得する必要はありませんし、むしろそのようなことをしていては仕事で成果は出せません。

このように入試と異なって、キャリアは自由度が高く主体的に選択することができます。また、2~3年我慢して突破すれば良いというものではなく、40~50年と長く続くものです。それにもかかわらず、好きでもないことをわざわざ選ぶなんてもったいないことです。

そこで私たちコンコードでは、人生を豊かに生きるために、自分の「好き」を軸にしてキャリアビジョンを設定することをお勧めしています。好きなことに打ち込んだ方が人生を楽しめるでしょうし、努力することも苦になりにくいため、スキルも身に付きやすくなります。そして、その道で一流になることができれば、社会に与えるインパクトが大きくなり、比例して収入も高くなっていきます。

つまり、少し長いスパンでとらえると、好きなことを仕事にした方が、精神的にも経済的にも、社会的にも得るものが大きくなるだろうということです。このことは、数多くのビジネスリーダーや、私が東京大学で行ったキャリアデザインの授業でゲスト登壇したエグゼクティブの皆さんも、異口同音に語るところです。

しかし、自分の好きなことを仕事に選んでよいと言われても、「そもそも自分が何を好きなのか分からない」という方もいるでしょう。

自分の「好き」が分からないと悩んでいるのは、学生の皆さんだけではありません。社会人の皆さんでも、自分が好きなことやキャリアビジョンをしっかりと把握している方は少ないのです。自分の「好き」を知ることは、それくらい難しいことだと思います。次章以降では、自分の価値観を探るための方法についてご紹介していきます。

自己分析手法「3つの輪」は少し使いづらい

一般によく知られている自己分析手法には、「好きなこと」「得意なこと(できること)」「やるべきこと(収入が得られること)」の3つが重なることを仕事にするという「3つの輪」分析があります。細かすぎる自己分析手法も見られる中、3つの輪の分析は、シンプルで直感的に理解しやすい手法となっています。しかしながら、以下のようにいくつか使いづらい面があるため、やや注意が必要です。

まずは、「好きなこと」の輪では、体験したことがないことは好きなことなのかどうか分からないという問題があります。また、選択した仕事の中に、ものすごく嫌いな側面が混ざっていることもありえます。その場合にはどうすればよいのでしょう。

「得意なこと(できること)」をあげる際もやや悩みます。就業経験のない日本の学生には、自分が何を得意なのかは分からないケースもあるでしょう。それに、好きな仕事に就いて打ち込んでいれば、得意なことやできることもどんどん増えていくはずです。

「やるべきこと(収入が得られること)」という観点で言えば、検討する対象のほとんどが職業として存在している時点で、はじめからほぼ満たされた要件です。また、高収入を得られるかについては、その道の一流になれるのか否かにかかっている部分が大きいため、この分析だけでは何とも言えません。たとえば、整体師という職業一つとっても、力量によって収入は何倍も何十倍も違います。

このような問題があるため、学生や若いビジネスパーソンの皆さんからは「3つの輪の分析は、実際にやってみると使いづらい」という話をよく伺います。

「好き・嫌い分析」は「好きのエッセンス」をつかむことからはじめる

私たちが勧める「好き・嫌い分析」は、自分の好き・嫌いのエッセンス(要素)を把握することで、目指すべきキャリアビジョンを知る方法です。自分でも気づいていなかったような、深い価値観に気づく方もいらっしゃいます。また当初、想定していなかった仕事が、自分にフィットすると発見することもあります。

それでは、好き・嫌い分析の具体的な手順をみていきましょう。

まずは、「好きのエッセンス」をつかむことから始めていきます。たとえば、自分が将棋を好きだったとします。「さすがに自分の棋力では今からプロ棋士にはなれない……。でも、最近は将棋ブームだし、食べていけるだけ稼ぐことはできそうだ。それに自分は文章を書くのは得意だ。では、将棋の記事を書くライターになろう」――と単純に考えてはいけません。

好き・嫌い分析では、文字通りまずは“分析”をします。自分は、将棋のどのようなエッセンスが好きなのかを分析するのです。好きのエッセンスとは、その対象を好きな理由や好きなポイントのことです。

一口に将棋が好きだと言っても、その理由は人によってさまざまです。良い作戦を用意して実戦で試すことが楽しいのか、勝負のスリルが楽しいのか、頭がちぎれそうなほど考えることが楽しいのか、最新の定跡を学ぶことが楽しいのか、などなど。愛棋家同士でも、将棋のどの要素が好きなのかは異なるでしょう。

さらに、将棋以外の好きなことからも、同様の手順で好きの要素を抽出していきます。友人と語り合うこと、映画鑑賞、読書、数学、一人旅など、他の好きなことについても、同様の作業をおこなっていきます。

このようにして分析していくと、共通項となる要素が浮かび上がってくるはずです。すると、自分はこういうエッセンスを含んだことが好きなのだ、ということが分かるようになります。その後、実生活の中で試し、違和感があれば修正するということを繰り返す中で、“腹落ち”できるものを選びます。この好きのエッセンスをつかむことが、キャリアビジョンを考えるうえでとても大切なことなのです。

「好きのエッセンス」をつかむことがなぜ大切なのか

なぜ、好きのエッセンスをつかむことが大切なのでしょうか。

第1のメリットは、「より純度の高い好き」を仕事に選べるということです。

前述の例で言えば、分析した結果、将棋を指すことは1つしか好きのエッセンスが入っていなかったけど、友人の相談に乗ることは3つのエッセンスが入っていたとなれば、人の相談に乗るような仕事を選ぶと良さそうだと予想を立てられます。また、生き方に関する本を読んだり、考えたりすることが好きなのであれば、相談に乗る内容をそれにすると、より純度が高い好きなことになると想定できます。

このように、好きのエッセンスをつかむと、より純度の高い好きなことを選択できたり、それを新たにつくり出したりすることが可能になるのです。

第2のメリットは、可能性の幅が広がり、「現実解」をみつけやすくなるということです。これも非常に大きなメリットです。

あるご相談者、高田さん(仮称)の事例をもとに説明しましょう。高田さんは、現在は40代で、今から20年以上前に就職活動をされた方です。就活当初は、臨床心理士になりたいと考えていたそうです。

しかし、臨床心理士になろうと思って調べ始めたら、当時は収入が低く生計を立てるのもなかなか難しいという状況でした。そこで困った高田さんは、自分のやりたいことの本質は何かと、改めて考えてみたそうです。

その過程で、親身になって人の相談に乗り、解決策を提案し、喜んでもらうということが、自分のやりたいことなのだと気づいたそうです。まさに好きのエッセンスをつかまれたのです。

そうであれば、何も臨床心理士にこだわる必要はない。もしかしたら、学校の教師も良いかしれない、ライフプランナーも良いかもしれないと、一気に視野が広くなったそうです。最終的に、高田さんは富裕層の資産運用と人生に寄り添う金融業界のプライベートバンカーの仕事を選択し、今もその業界のエグゼクティブとして活躍されています。

一般的には、臨床心理士とプライベートバンカーは全く違う業界・職種です。しかし、高田さんの価値観の軸で見ると、両者は非常に近い仕事ということになります。周辺業界だけを探る就職活動では、このような仕事にたどり着くことは難しいでしょう。

自分の好きのエッセンスを把握すれば、各々の仕事の特性を自分の軸で理解できるようになります。このように見ていくと、異なる業界、異なる職種の中にも、自分の好きな仕事が存在している可能性は大いにあるのです。

自分が好きなものであっても、収入が低すぎたり、身体能力的に難しかったりするなど、現実的に厳しい選択肢となっていることはあるでしょう。その際に、好き・嫌い分析を経ることで、当初就きたいと思っていた仕事と同様の好きな要素を持つ、「現実解」として選択できる仕事を見つけやすくなるのです。

「嫌いのエッセンス」はノックアウトファクターの把握に使う

次に「嫌い」の分析についてもみていきましょう。

「嫌い」についても「好き」と同様に分析を行なって、「嫌いのエッセンス」をつかみます。どうしても嫌いなことが分かれば、避けるべき仕事や環境を判断できます。好きのエッセンスを満たしている仕事だとしても、含まれていれば避ける「ノックアウトファクター」として活用するのです。

仕事で大きなストレスを受けないため、短期間での離職を避けるためにも、この観点は非常に大切です。健全に働くためには、好きのエッセンスをつかむこと以上に重要かもしれません。もちろん、何もかも嫌いとワガママばかりを言っていては駄目なのは前提となります。

私の場合だと、上司にへつらった者勝ちという、いわゆる社内政治が幅を利かせる環境が、嫌いな要素です。私が就職活動時に内定を頂いたあるコンサルティングファームは、ベンチャー企業を対象にした経営支援をしていて、私の希望にぴったりの仕事内容でした。しかし、役員の部下に対する接し方を見ていると、どうも様子がおかしい。私の前でも、40代、50代の部長や課長を度々厳しく叱責しています。違和感を覚えた私は、ノックアウトファクターを重視して、辞退する決断をしました。

社会人になった後で分かったのですが、そのファームはパワハラ行為で有名な会社でした。しかも、部下を叱責していた役員が私の直属の上司となる予定だったそうです。入社していたら、仕事内容がいくら面白くても、私はもたなくて短期間で辞めていたことでしょう。改めて、新卒で入社したシンクタンクの上司や先輩の皆さんの丁寧な指導には深く感謝する次第です。

キャリアビジョンは、ざっくりと決めれば十分

なお、キャリアビジョンを設定すると聞くと、将来やるべきことを詳細に決めることだと固く考えてしまう方も少なくありません。なかには、25歳で○○をして、30歳で△△をして、40歳では××をする……といった具合で、詳細に計画をつくろうとする方もいらっしゃいます。しかし、実際にはざっくりとした方向性が決まれば十分です。むしろ柔軟性をもたせた方が、機能するキャリアビジョンとなるでしょう。

たとえば、人々が楽しく活躍できる組織を増やしたい、中高生向けのキャリア教育に携わりたい、故郷の経済を活性化したい、といったイメージで大丈夫です。登山でたとえるならば、どの山に登るかが決まればよいのです。

山に登る際、ふもとから山頂を見上げていても、頂上の詳細な様子は決してわかりません。登って近づく中で、最終的なゴールが徐々にクリアに見えてきます。また、山に登って時間が経てば天候も変わってしまいます。頂上に着いてから何をするのが最適なのかは、その時の状況によって変化するでしょう。

キャリアは数十年にもわたるものです。当然、外部環境や産業構造は変化します。新しいテクノロジーや新しい職業が登場することもあります。そのため、20年先、30年先のことを細かく決めても、あまり意味がありません。最適な取り組み方や活用すべきリソースは、その時に柔軟に考えて決めれば良いのです。肝心なのは、その取り組みをできるように、目指すゴールの周辺領域でキャリアを培っておくことです。

日記は自己分析に役立つ貴重なデータ

好き・嫌い分析を行う上で、お勧めしたいのは「日記(記録)」をつけることです。自分が日々どのようなことを楽しいと感じ、何を嫌いだと感じたのか、何に憤りを感じ、どんな人を助けたいと思ったのかを記録していくことは、自分の好き・嫌いを知る上で大変有効です。

この作業を続けていくと自分の好き・嫌い情報が膨大にたまります。1年ほど書きためた後で振り返ってみると、自分が何を好きで、何を嫌いなのかがクリアに分かるようになるでしょう。

今回ご紹介した手法は、以前に私が教壇に立った東京大学のキャリアデザインの授業でも紹介して、学生の皆さんから大変好評でした。取り組みやすい方法ですので、ぜひ試してみてください。

自己分析は時間がかかるものです。就職活動の直前に、自分がやりたいことは何か、人生をかけて成すべきことは何か、と急に考えはじめても、納得いく答えはなかなか見つからないでしょう。早い時期からキャリアと向き合い、ご自身の好き・嫌いや価値観をつかんで頂ければと思います。

著者

コンコードエグセクティブグループ代表・CEO 渡辺 秀和

2008年、コンコードエグゼクティブグループを設立。外資系戦略コンサルタント、PEファンド、ベンチャーCxOなどへ1000人を越えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援。「日本ヘッドハンター大賞」初代MVPを受賞。2017年に東京大学で開講されたキャリアデザインの授業「キャリア・マーケットデザイン」のコースディレクター。2022年、「キャリア教育プラットフォーム」コンコードアカデミー代表取締役会長就任。 著書 『未来をつくるキャリアの授業』、『ビジネスエリートへのキャリア戦略』は東京大学の教科書に選定された。『新版 コンサル業界大研究』は東大生協本郷書籍部で第1位を獲得。

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