
少し前に流行した「リケジョ」という言葉は、近ごろほとんど聞かなくなりました。「女性は文系に進むもの、女性が理系に進むと就職に困る」ともいわれた時代も過去にはありました。
しかし、近年理系に進む女性は珍しくなくありません。「男女ともに理系は就職に有利」とのデータもあります。この記事では理系の学生は院に進むべきか、就職が良いのか、就職なら研究や技術系しか道はないのかといった疑問に答えます。
理系の就職率は高い?

一般的に、理系学生の就職率は高いというデータが出ています。その理由のひとつに「学校推薦」があり、文系の学生よりも就職が有利である点が挙げられます。技術職での就職はいまも昔も変わらず引く手あまたです。理系の学生は卒業後、メーカーに就職するパターンが多く見られました。
しかし近年、理系学生の就職先が文系にも広がり、就活の選択肢が多くなりました。
- コンサル
- 商社
- 金融(銀行、保険、証券)
- マスコミ
これらの業界はかつて文系出身者ばかりでしたが、近年は理系の就職も目立ちます。共通しているのは、数字を扱う業界であることです。上記の業界はいずれも数値で結果を計測し、統計を取り、分析します。数字とは切り離せない業界ばかりであり、理系の強みが十分に活かせます。
理系は数字を扱うことに長けているだけでなく、分析し、ロジカルに考えることもできるため重宝されます。事務職に就く理系も多く、理系学生の就職の間口は広いといえます。
大学院進学と学部就職それぞれのメリット・デメリット

理系は卒業後の進路として院に進むのか就職するのか、悩む学生が多く見られます。研究者としてさらに研鑽に励む、早く社会に出て経験を積む、両者ともに一長一短があり、一概にどちらが良いとはいえません。本項ではそれぞれのメリット・デメリットをお伝えするので、よく考えて後悔のない選択をしましょう。
大学院進学のメリット・デメリット
理工系の大学生が院に進む割合は、一般的に高いとのデータがあります。令和2年度の統計によると、理工系の学部の大学院進学率は60%を超えています。文系学部を全部合わせてもわずか17%弱なので、いかに理系の大学院進学率が高いかがわかるでしょう。なかでも工学部は42%強が院へ進みます。
医学部や歯学部、薬学部といった保健科学はもともと6年制であり、国家試験を受けて医師や薬剤師になるという明確な就職希望先があるため、進学率は低くなっています。
令和2年3月 | 73813(人) | 進学率 |
人 文 科 学 | 4071 | 5.52% |
社 会 科 学 | 7172 | 9.72% |
法学・政治学 | 1035 | 1.40% |
理 学 | 6617 | 8.96% |
工 学 | 31667 | 42.90% |
農 学 | 4146 | 5.62% |
保 健 | 5306 | 7.19% |
(引用:e-Stat 政府統計の総合窓口)
院に進むメリットとデメリットには、以下のものが挙げられます。
【メリット】
- 高い知性と思考能力が身につく
- 大企業の研究職への就職が有利になる
4年で卒業した人よりも2年長く専門的な研究をしてきた学生には、より高いレベルの知識や知性が身につくでしょう。そのため大手を中心に、研究職への採用は修士以上としている企業が多くあります。もし、研究職を望むのであれば、修士課程に進むのはメリットになります。
【デメリット】
- 就職が2年遅れるため経験に差が出る
- 専門職は狭き門になる
理系の就職先で代表的なのは、生産・技術系です。企業としては早く会社になじみ、経験を積むことを願っています。院卒の学生にとって、学部卒の学生よりもスタートが2年遅れることが不利に働くことがあります。
また、院卒の学生は大企業を指向する傾向があります。企業側も研究開発職においては、修士以上を条件にしていることが一般的です。しかし、当然ながらすべての人がそのポストを得られるわけではなく、就職は狭き門となります。
学部就職のメリット・デメリット
学部就職のメリットとデメリットは、どのようなものでしょうか。
【メリット】
- 院卒よりも2年早く経験を積める
- 就職の間口が広がる
企業としては早く即戦力になれる人材を求めています。院卒の学生よりも2年早く卒業して就職する学部生は、それだけ早く職場に慣れてスキルを磨けます。特に技術職では企業が独自の育成マニュアルを作っていることが多く、2年早く就職した分明確に差がつき、昇進も早くなります。
理系の学部卒なら、文系就職といわれる一般就職も視野に入れられます。専門にこだわらず、製造業や技術職、事務なども視野に入れられるため就職には有利でしょう。
【デメリット】
- 専門を活かせないことがある
- 学校推薦をとるのが難しい
理系の学生にとっては、自分の専門を活かせる職種につきたいと考えるのは自然なことです。しかし、研究職や開発といった専門知識が必要な分野においては、修士課程を修了している学生が望まれます。よって、そういった専門分野で就職したいと願う学部生にとって、不利になることは否定できません。
また、学校推薦を取りにくいデメリットもあります。学校推薦については、次項で詳しく説明します。
理系の学校推薦・推薦応募と自由応募について

理系の就活において特徴的なものに「推薦応募」があります。推薦応募とは、学校と企業との信頼関係によって成り立つ、特定の大学、特定の学部に対してのみかける募集のことです。
いわば学校や教授のお墨付きともいえるので、企業側の信用もあり、一定の基準を満たしている場合、テストを免除されるケースもあります。一方、自分で企業の採用募集にエントリーするのが自由応募です。自由応募についても詳しくは後述します。
学校推薦・推薦応募のメリット・デメリット
推薦応募には学校からの推薦、学部からの推薦、教授からの推薦と、さまざまなパターンがあります。学校推薦のメリット、デメリットには次のものが挙げられます。
【メリット】
- 選考過程が大幅に省略されるため、学業に専念できる
- 合格率が高い
理系の学生にとって文系の学生がインターンに入る学部3年生の夏は、ゼミに所属し研究するテーマを決めなければならない時期です。研究や論文の準備などが忙しく、インターンに出られない学生も多くいます。忙しい理系の学生にとって就活における選考過程の免除は時間的、精神的な負担の軽減になるでしょう。
【デメリット】
- 内定を断れない
- 企業の選択肢が狭い
一方、学校推薦で内定が出た場合、基本的に断れないことを覚えておかなければなりません。企業は学校にオファーし、そこからエントリーしてくる学生は第一志望と捉えられるため、内定を辞退されることは想定していません。
もし、学校推薦枠で内定した企業への就職を辞退するようなことがあれば、翌年からその企業からのオファーがなくなる恐れがあります。それは学校の信用を傷つけることになり、また後輩たちの選択の幅を狭くするでしょう。学校推薦を使うなら、入社する強い意思をもつ必要があります。
自由応募のメリット・デメリット
自由応募とは学生が自分で就職サイトやエージェントを通して、選考を受ける企業を選択し、採用募集にエントリーする方法です。多くの学生が取る手法ですが、やはりメリットとデメリットがあります。
【メリット】
- 自分の行きたい企業を選べる
- 同時にいくつもの企業にエントリーできる
自分のやりたいことを重視し、就職したい企業に自由にエントリーできます。また同時に何社もエントリーできるため、内定を得られた企業のなかからもっとも望ましい会社を選べます。
【デメリット】
- 競争率が激しい
- スケジュールがタイトになる
競争率の高さは学校推薦の比ではありません。職種によっては理系だけでなく、文系学生もライバルになるでしょう。また、自由応募ではESを準備し、面接も数回受けなければならず、内定を勝ち取るまでに時間がかかることもデメリットのひとつです。
文系の学生は就活のために何か月も前から逆算して準備しています。理系の学生はその間にも研究や論文執筆などを行っているため、準備がどうしても遅れる傾向があります。タイトなスケジュールになることを、覚悟しなければなりません。
理系は理系就職・文系就職どちらも選べる

理系の学生のなかには、就職も理系しかないと考える方がいます。しかし、一般的には文系就職といわれるコンサルティングや、金融の分野でも理系の素養が求められる場面は多く見られます。理系だから研究や技術職でなければならないわけではなく、むしろ理系だからこそ幅広い分野から進路を選べるため、有利だといえます。
理系就職について
理系の学生が多く就職する企業としては、トヨタ・NTT・ソニー・富士通といった、製造、技術、情報分野の企業が人気です。ダイレクトに研究分野を活かせる点で、理系の就職は魅力があります。
理系学生の文系就職について
近年では理系出身の学生が営業職や企画職、コンサルティングやマーケティングなど、文系の分野にも進出しています。一般的に文系学生が多くエントリーする業界に、理系学生が就職をめざすことには、どのようなメリットやデメリットがあるでしょうか。
【メリット】
- 即戦力になりやすい
- 文系の学生と差別化しやすい
近年では企業、職種を問わずIT化が進んでおり、システムを熟知した理系の学生は重宝される傾向があります。また、金融やマスコミ、マーケティングなどの分野では数字や統計に強いことは有利に働くでしょう。また文系の学生と違った角度からエントリーシートを強化すれば、差別化を図れます。
【デメリット】
- 準備時間が限られる
- OG・OBが少ない
- 学校推薦が受けられない
文系の学生は3年の夏から、本格的にインターンシップが始まります。しかし、理系の学生はこの頃から自分の研究テーマをもち、論文の執筆にかからなければならないため、一般的に忙しい時期です。
そのため、文系の学部生に比べて就活にかけられる時間は限られています。また、アルバイトやサークルに入る時間的余裕もないため、面談でよく尋ねられる「ガクチカ」のネタに乏しいという人もいます。
理系から文系に就職する人は限られているため、OBやOGがそもそも少なく、仲間からの情報が少ないこともデメリットになります。自分で情報を収集し、データを集めなければなりません。
学校からの推薦が受けられないのもデメリットです。比較的合格率の高い学校推薦を受けずに、自分の力で内定を勝ち取らなければなりません。
理系出身者の就職活動での強み

理系の学生は数字や分析、論理的思考、専門性の高さ、メンタルの強さなど、長い就活の期間において有利に働く素養はたくさんあります。
【金融やマスコミなど】
金融業界(銀行・保険含む)などでは数字に強く、市場の動向をみて分析し、的確な投資判断を下すことが求められます。理系はまさにこれらに長けています。またマスコミや広告の分野などではビッグデータの解析が必要であり、そういった分野でも素質が活かせるでしょう。
【メーカーでの営業】
システムやエンジニアの観点がわかっている営業なら、単に物を売るだけでなく、一段と説得力のあるセールストークをできる強みがあります。
理系の学生は、自分で課題を見つけ、納得がいく答えを得るまで粘り強く研究課題に取り組んできた方がほとんどです。そのような経験は社会人として働くうえでも、PDCAを回したり、すぐに結果が出なくてもあきらめずに仕事に取り組む姿勢として現れたりすることが多く、企業からは高く評価されます。
理系学生が文系就職をする際の注意点
理系の学生が文系就職をするときの注意点は、文系の学生と争わなくてはならない点です。文系の学生は早くから、徹底的に準備を行っています。理系の学生はそもそも準備にかける時間が限られていること、スタートが遅くなりやすい点には留意すべきです。
また面接では必ずといって良いほど「理系なのになぜ文系就職をめざすのか」と聞かれます。自分がなぜこの業種を選んだのか、明確な答えを準備しておくと良いでしょう。
まとめ
時代は「文理融合」へ動いています。理系だからといって、必ずしも院進や学校推薦を選ぶ必要はありません。理系で学び身につけたスキルは、文系分野でも重宝される有用なものです。
「自分は理系だから理系の職種にしか就職できない」と考えず、視野を広げて文系就職の選択肢もあることを忘れないでください。ATLASでは、理系の就活生にも情報を多く提供しています。文系・理系の枠にとらわれない就職活動を応援します。