2023/06/05
【PwC】多様性を尊重する、これからのコンサル
住友商事は国内財閥系の総合商社であり、1919年に設立された大阪北港株式会社が起源とされる。1952年に社名を現行の住友商事株式会社に変更し、以降国内外に幅広い事業を展開してきた。住友商事の理念は住友家初代の住友政友が1652年に提唱した文殊院旨意書にまで遡る。中でも第一条で述べられてる進取の精神は、現在でも事業計画や求める人物像にもフィロソフィーを継承した記述が散見されている。経営理念は企業使命・経営姿勢・企業文化の3軸から設計されており、社会的インパクトや人権・信用といった誠実さ・倫理観を重視している姿勢がうかがえる。
組織体制として、営業部門は総合商社の中では比較的大きな区分で設定されており、金属、輸送機・建機、インフラ、メディア・デジタル、生活・不動産、資源・化学品の各事業部門に分かれている。残りのエネルギーイノベーション・イニシアチブでは主に次世代の事業開発に注力している組織である。直近では韓国ロッテケミカルで水素・アンモニア分野での協業が発表されたが、これもエネルギーイノベーション・イニシアチブの領域での事業である。
2022年3月期決算では、業界全体が好調の波に乗る中4637億円という過去最高益を叩き出した。資源価格の高騰はもちろん要因としては大きいが、住友商事の場合は一時プロジェクトがストップしていたマダガスカルニッケル事業の操業再開も大きく影響した。金属分野での海外スチールサービスセンター事業の回復も主要因の一つである。また、輸送機・建機事業においても、リース事業の回復などで業績を伸ばした。社外情勢の変化に伴い、総合商社各社も事業ポートフォリオの適正化を進めているところではあるが、住友商事では「仕組みのシフト」「経営基盤のシフト」が重要であると考えている。具体的には、投資案件のパフォーマンスの徹底分析やグループマネジメントポリシーの設定が施策として挙げられる。住友グループの中での自社の位置付けや、スキルやノウハウを結集した形で統合的な事業展開をしていこうとする意図がここからうかがえるだろう。シフトの方向性については中期経営計画SHIFT2023にて提示されており、短期的な資産入替えの徹底・中長期的なシーディングシフトなどを通して、高い収益性と下方耐性の強いポートフォリオを目指している。
また、経営基盤についても同様にシフトしていく方向を示しており、ガバナンスの強化・人材マネジメントの強化・財務健全性の維持向上をテーマに、適材適所に向けたプラットフォームの整備を進めている。
国内三大財閥グループはそれぞれ、組織の三菱・人の三井・結束の住友という呼ばれ方をすることがある。三菱商事と三井物産は直近で圧倒的な業績を残している中、住友商事の特徴はどの辺りにあるのであろうか。今回は「総合力」「メディア分野」「リスク回避の徹底」という3つの項目に分けて解説をしていく。
まず一つ目は「総合力」について。会社として全体最適を進めていく中で、グループ単位の総合力は大きな役割を果たす。統括的なポジションとして、中期経営計画SHIFT2023ではグローバルイノベーション推進委員会・全社経営戦略推進サポート委員会の設立も表明している。総合商社のビジネスモデル上、単体の企業で完結するプロジェクトというものは少なく、ステークホルダーとの協業は必須となる。住友商事グループのHPを参照すると、「当社グループの強みである「総合力」を発揮しながら、日本はもとより世界各地でグローバルに事業を展開しています。」という記述がある。住友商事は関連企業として一定以上の規模の専門商社を多数有している。例えば、鉄管専業商社である住商メタルワン鋼管は業界内で国内最大の売上高を誇り、非鉄金属・再生可能エネルギー等を取り扱う住商メタレックスは住友商事の事例でも多数その名が登場している。三菱商事も三菱地所が絡むプロジェクト等が多数存在するが、スケールのある専門商社をこれだけ立て、高い専門性を有した集合体として業務遂行できる点は他にはない特徴の一つと言えるだろう。こういった複数の法人という組織の力を結集することが「結束の住友」と呼ばれる所以なのかもしれない。
続いて二つ目の「メディア分野」について。住友商事ではメディア・デジタル事業部門がメディア関連の事業を担っている。2022年3月期に関しては海外通信事業の減益もありやや業績を落としたが、核となるケーブルテレビのJ:COMを中心に例年安定して利益を生み出している。J:COM以外にも、SI系の事業を持つ関連会社SCSKとの連携や社内ベンチャーの性格を持つSCデジタルメディアの展開も含めて住友商事の特徴的な事業と言えるだろう。実際、「住友商事は、世界各国で多岐にわたるビジネスを手掛けており、メディア・デジタル分野に強みがあります」という記述がケーススタディでも散見される。
最後に三つ目の「リスク回避の徹底」について。総合商社のビジネスにおいてリスクはつきものである。例えば、カントリーリスク・為替リスク・調達リスク・地政学リスクなど枚挙にいとまがない。もちろんこういったリスクはどんな事業を営んでいてもある程度避けられないところではあるが、総合商社の場合は事業規模や領域の広さもあり、よりこういったリスクに対しての的確な判断が求められる。そのため、総合商社の多くはリスク管理部を設定して評価をしている。リスク管理というと一般的に「マイナスを避ける」という意味でイメージされがちではあるが、住友商事の場合は「差別化要因」の位置づけであることを明確に表明している。カンパニー制というよりは事業部制に近い組織形態を取っているが、これは各組織内でのリスク範囲を明確にすることを意図している。横断的にリスク管理部を設定するのと比較して、事業部内に設定することで現場レベルをより密接に把握したうえで意思決定できるという優位性があるためだ。実際決算指標を見ても、住友商事の2022年3月期の利益率は約8.8%だったが、これは同年業績好調であった三菱商事(約5.8%)・三井物産(約8.0%)をも上回っている。こうした利益体質も的確にリスクを分析し、収益性の高い分野に投資していることが一因として挙げられるだろう。
住友商事では持続的な成長のために6つのマテリアリティを提示している。具体的には、地球環境との共生・地域と産業の発展への貢献・快適で心躍る暮らしの基盤づくり・多様なアクセスの構築・人材育成とダイバーシティの推進・ガバナンスの充実の6点だ。近年の事例を見ても、このいずれかと関連を持った内容が多いことが読み取れる。2022年11月に着工した西武ホールディングスとの共同プロジェクトである所沢駅西口開発計画辺りはその典型例だ。駅東口の開発が進む中、「ベッドタウンからリビングタウンへ」をコンセプトにエリア内でいきいきとした生活を完結させることを目指している。以上の内容を踏まえると、6つのマテリアリティのうち地域と産業の発展への貢献・快適で心躍る暮らしの基盤づくりの2点に当てはまる事業と言えるだろう。先述した住友商事の強みであるメディア・デジタル事業部門でも鉄道事業と関連した事例があり、直近では東急電鉄・富士通と協働で自由が丘駅のローカル5G実証実験を行った。具体的には、線路の自動検知や運転業務効率化を5Gの技術を用いて実現することを目標としている。全国5Gと比較してローカル5Gは地域に根付く事業者が主導し活用を進めていくことが多い。この点、所沢西口開発と同様に、地域への貢献という意識が根付いている姿勢もうかがえるだろう。
中期経営計画SHIFT2023では、DXによるビジネス変革+サステナビリティ経営高度化による事業ポートフォリオのシフトが表明されている。DXについては、2018年にDXセンターを設立して以降、国内外で様々なプロジェクトを立ち上げた。DXの活用により、先述した6つのマテリアリティを単体で実現するのではなく、複合的に価値発揮をしていくための役割を担わせたいという意図がうかがえる。DX関連の直近の事例として、ベトナムタンロン工業団地を始めとした東南アジアエリアのメーカーに切り込んだサービスを2022年6月から開始した。単なるロボット化・自動化にとどまることなく、サプライチェーンの管理や最適化・故障等の自動検知・稼働状況の最適化といった生産性・QCD両面から支える取組みになる。この事例は6つのマテリアリティの中で言うと地域と産業の発展への貢献などが該当するだろう。こうした取組みは地域外への横展開や、総合商社の川上から川下へのビジネスモデルの中で横断的な携わり方へシフトしていく方向に進めやすいのがメリットである。実際、次世代成長戦略テーマでもDXは横断的役割が期待されていることを明記していることから、今後の活動でも何かしらの形でDXが絡むケースは増えていくのではないだろうか。
投資案件としてDXも関連するところではあるが、2022年4月にコーポレートベンチャーキャピタルの住商ベンチャー・パートナーズ株式会社を設立した。DXの海外展開も進めており、先述した強みの一つであるメディア分野で言うと2022年10月のエチオピアにおける通信サービスの提供開始はその代表例だ。1995年時点でKDDI・モンゴルニューコムグループとモビコムを設立しており、こうした以前からの実績の積み重ねで今回のエチオピアへの展開が進んだ側面もあるだろう。
「人材の発掘・育成は経営の最重要課題」と採用HPでもはっきりと述べられているように、住友商事は経営資本の中でも人材の質を特に重視している。具体的な育成方針として、「世界で通用する力(=専門性)を、一人ひとりが高めること」を掲げており、キャリアアップの制度・仕組みもこの考え方に基づくものが多い。尚、先述した住商メタルワン鋼管・住商メタレックスといった関連した専門商社については個別に採用を行なっているため、ここでは住友商事株式会社に限った内容となる。
住友商事の求める人物像は「グループの理念やビジョンに共感し、高い志を持ち、自律的な成長を続け、進取の精神で、グローバルフィールドで新たな価値創造に挑戦する人材」である。冒頭で述べた進取の精神がここでも登場している。この内容を踏まえて選考にあたっては、自身の適性をアピールするだけでなく、会社の目指している方向と自分の志向が一致している旨を的確に伝えていけると良いだろう。
2021年度の採用人数は、新卒採用が106名・キャリア採用が20名となっており、日系企業らしく新卒入社のキャリアの方が一般的だ。新卒の場合初期配置は原則東京になっている。以前はいわゆる総合職・一般職に近い職種別採用を取っていたが、2022年入社からはプロフェッショナル職一括採用に変更された。先述した6つのマテリアリティに「人材育成とダイバーシティの推進」という項目があったことで、画一的な基準ではなくある程度幅を持たせたうえで多様な人材を求めていることが推測できる。事業ポートフォリオ再構築の動きが進んでいく中で、人材の最適配置を推進すると記載されていることからも分かるように、採用段階だけでなく入社後のキャリアについてもより多様化が進んでいくことだろう。
働き方については柔軟かつワークライフバランスを重視した各種制度が整っている。2017年以降の月間時間外労働時間は10時間程度・年間有給取得率75%以上となっており、激務のイメージが根強く残る総合商社の中では比較的プライベートとの調整が可能であることが推測できる。一般的に住友商事には穏やかな人が多いと言われるが、こうした働き方の環境も少なからず影響している側面もあるかもしれない。
待遇面ではPay for Job, Pay for Performanceを基本方針として掲げている。資格等級や勤続年数によって支払われる体系ではなく、成果主義に近い方向性に舵をきる方針のようだ。事実30歳辺りから管理職登用試験を受験でき、三菱商事等と比較すると早い段階からキャリアに差がつきやすいと言えるだろう。
デザイン思考テスト
冬(1~2月)
デザイン思考テストのみ
150人程度
東京一工、早慶、その他国立大
150人程度
約550万円(一般的な残業代込み)
企業名 | 住友商事株式会社 |
設立日 | 1919年12月24日 |
代表者 | 代表取締役 社長執行役員 CEO 兵頭 誠之 |
本社住所 | 東京都千代田区大手町二丁目3番2号 大手町プレイス イーストタワー |
従業員数 | 5,376名 |
資本金 | 2,196億円 |