2023/06/05
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大学生が株式会社リクルートHD(以下、リクルートHD)のサービスを一切受けずに企業に就職することはほぼ不可能です。同社傘下の株式会社リクルート(以下、リクルート)は国内最大の就職情報企業であり、大学生だけでなくすべての人の就職・転職をサポートしています。
リクルートが就職情報、就職支援で強いのは、人材(ヒューマン・リソーシズ、以下HR)全般に関わっているからです。そしてHR以外にも、住宅のスーモ、結婚のゼクシィ、旅行のじゃらん、中古車のカーセンサーなどを展開し、リクルートHDのサービスを一切受けずに消費生活を送ることは至難の業です。
日本人の仕事と生活をサポートする3兆円企業を研究していきましょう。
記事中のデータは2022年11月現在のものです。
リクルートHDは持株会社であり、その傘下に多くの事業会社があります。そのためリクルートHDの企業活動を理解するには、傘下企業の事業を知る必要があります。ここでは、1)傘下企業の筆頭でありHR事業と販促事業のリクルートと、3)HRテクノロジーのIndeed,Inc.(以下、インディード)の事業を紹介します。
事業を解説する前に、リクルートHDの概要を紹介します。
リクルートHDは東証プライム市場に上場している、約3兆円の売上高を誇る企業(群)です。大株主は金融機関ですが、2大印刷会社と全国放送のテレビ局も株主に名を連ねています。
リクルート事件とは
事業を解説する前にもう1つ紹介しなければならないことがあります。それは日本の社会と政治を揺るがしたリクルート事件です。リクルートはこの事件を公式サイトで次のように紹介しています。(リクルート自身の解説、( )内は補足)
1988年6月18日、当時リクルートグループの1社であったリクルートコスモスの未公開株が、川崎市(神奈川県)助役に譲渡されていることが明らかになったことをきっかけに始まった事件。東京地検特捜部は、4ルート(労働省・文部省・政界・NTT)の収賄側8人と贈賄側4人の計12人を起訴し、全員に有罪判決が確定。その後、2003年3月4日、弊社創業者(故・江副浩正氏)に下された有罪判決をもって、長きにわたるリクルート事件の審理に幕が下ろされた。
リクルート事件から経営理念の制定まで
リクルートは社会に迷惑をかけた事実を重く受け止め、経営の原則を、従来の「商業的合理性の追求」から「新しい価値の創造」に変えました。商業的合理性を追求しすぎることを否定したことは大きな変化といえ、それが今の3兆円企業をつくったと考えることもできます。
リクルートHDを研究するときはこの歴史を避けることはできないでしょう。
リクルートのHR事業と販促事業
筆頭傘下企業のリクルートが手がける事業とブランド名は以下のとおり。
スーモ:住宅購入、賃貸、注文住宅、不動産売却に関する情報の提供
ホットペッパー・ビューティ:ヘアサロン、リラクゼーション、ビューティサロンの検索、予約サイト
ゼクシィ:結婚式会場、ジュエリー、ドレス、引き出物などブライダル情報の提供
じゃらん:国内、海外旅行の予約
ホットペッパー・グルメ:飲食店、グルメの情報提供、予約サイト
カーセンサー:中古車の情報を提供
スタディサプリ:高校生の学習をサポート
Airビジネスツールズ:飲食店や小売店などの予約、受付管理、会計、決済、シフト管理に関わるシステムの提供
リクナビ:学生、既卒生の就職情報の提供
リクナビNEXT:社会人向けの就職・転職情報の提供
リクルートエージェント:転職活動のサポート
タウンワーク:地域密着型の求人情報の提供
フロム・エー・ナビ:アルバイトとパートの求人情報の提供
リクルートの最初のビジネスは大学生に向けた求人情報の提供で、それが今も健在であることがわかります。
就職情報を提供するビジネスモデルは、情報を集めて情報を必要とする人に集中的に提供する形態です。就職情報を住宅情報に換えたのがスーモであり、就職情報をブライダル情報に換えたのがゼクシィであると考えると、リクルートのビジネスモデルはブレていないことがわかります。そしてスーモは住宅関連企業の販売促進をサポートし、カーセンサーは中古車業者の販売促進をサポートしているので、これらの事業を販促事業と呼んでいます。
インディードのHRテクノロジー事業
「仕事探しはインディード」という文字をみただけで、テレビCMのあの音楽が頭のなかを流れるのではないでしょうか。インディードはアメリカの会社で、リクルートHDが2012年に買収し、日本でも事業を展開するようになりました。インディードが提供するサービスは、求人検索エンジンです。求職者がインディードのサイトにアクセスすると、求人票をみることができます。この仕組みは、日本のハローワークのサイトと似ていますが、機能も規模もまったく違います。インディードはWeb上の求人情報を集め、それを求職者(インディードのユーザー)に提供しています。人材を探している企業がインディードに求人広告を出すこともできます。またインディードは世界の60以上の国・地域でサービスを提供していて、毎月の利用回数は3億回、登録している履歴書の数は2.25億件にのぼります。
リクルートHDにとってインディード事業は、グローバル展開の重要な一歩になりました。リクルートHDは2000年代に、中国にブライダル事業で進出したものの数年で撤退してしまいました。インディード買収は海外進出のリベンジでもあり、そして見事に60以上の国・地域に進出することに成功しました。さらにHR(人材)ビジネスのデジタル化を進めるHRテクノロジー事業を経営の柱にすることもできました。
リクルートHDのライバル企業には、HR事業のパーソルホールディングス株式会社(以下、パーソルHD)があります。両社はともに東証プライム市場に上場しています。パーソルHDは就職・転職支援のdodaや、人材派遣のテンプスタッフ、シンクタンクのパーソル総合研究所などを展開しています。
両社の会社概要を並べてみます。
パーソルHD | リクルートHD(再掲) | |
本社住所 | 東京都港区南青山1-15-5 | 東京都千代田区丸の内1丁目9番2号 |
設立 | 2008年 | 1963年(創業は1960年) |
資本金 | 175億円 | 400億円 |
従業員数 | 連結60,675人 | 136人(グループ従業員は51,757人) |
連結子会社 | グループ会社137社 | 271社(その他に関連会社8社) |
連結売上高 | 1兆609億円(2022年3月期) | 2兆8,717億円(2022年3月期) |
市場 | 東証プライム市場 | 東証プライム市場 |
パーソルHDは 2022年に15年目となり、リクルートHDは60年目。年月の差はちょうど4倍になります。連結売上高はパーソルHDの1兆609億円に対し、リクルートHDの2兆8,717億円で、その差は2.7倍です。ただ従業員数はパーソルHDのほうが1万人近く多くなっています。HRに特化しているパーソルHDに対し、リクルートHDはHRビジネスで培った手法を他の領域にも広げています。これが企業規模の違いに現れているのでしょう。
IT人材を増やすべきだったと悔やむCEO
リクルートHDは2022年4~9月期の連結決算で、純利益が前年同期比3%増の1,697億円となり、2年連続で最高を更新しました。インディードを中心とするHRテクノロジー事業の売上高が同46%増となり、これが全体を牽引(けんいん)しました。
ただリクルートHDのCEO出木場氏は、コロナ禍で人材採用を抑制してきたことを悔やんでいます。コロナ禍で経済の先行きが見通せないなかで採用を抑制するのは当然のことであり、リクルートHDもそうしてきました。しかしコロナ禍は経済のオンライン化を進めたので、労働市場は今、IT人材の争奪戦が起きている状態です。だから出木場氏は、コロナ禍でこそ人材採用を増やすべきだったと後悔しているのです。
ボタンひとつで就職できるシステムをつくるために
リクルートHDが懸念するのは、景気の低迷による労働の需給の乖離です。経済が低迷すると人余りが起きて企業は採用を控えるので、HR事業には逆風になります。
しかしITで武装しておけば業務の効率化を図れるので、HR市場が低迷してもHR事業で利益を出すことができます。それにはHRテクノロジーが欠かせず、担い手になるIT人材がたくさん必要です。好調なインディード事業(=HRテクノロジー事業)ですが、課金に課題があるといいます。人材を探している企業に満足してもらえるHRサービスをITやインターネットやシステムを駆使して提供できれば、企業は課金に応じてくれるでしょう。しかし満足できなければ課金に応じず離脱します。そのためHRテクノロジーの高度化が、リクルートHDにとって重要課題になるわけです。
リクルートHDは、AI(人工知能)を活用して、簡単かつ短期間で最適な人材マッチングを実現する「ボタンひとつで就職できる」システムをつくろうとしています。
リクルートHDの働き方・働かせ方とキャリア形成の特徴を紹介します。なおリクルートHDの従業員の平均年齢は38.9歳で、平均勤続年数は8.34年、平均年間給与は9,976,816円です。大体40歳で年収1,000万円というイメージです。
副業、兼業、起業もOK
同社は、最も大切な価値観は個の尊重であると考えています(。この価値を高めるために同社は、従業員に1)能力開発とチャレンジの機会を与える、2)働き方を選択できる職場環境、3)結果に対する報酬―の3つを約束しています。そのために研修を充実させています。リクルートには、新任マネージャー向け研修や役割転換を促すトランジション研修、600種類以上の講座、UI・UX、Webマーケティングが身につくITブートキャンプ研修といった学びの機会があります。
働きやすさの向上では、フレックスタイム、リモートワーク、時短勤務、週休3日制といった制度を導入。そしてリクルートでは、副業や兼業だけでなく、起業も推奨されています。これは、従業員が外に出れば、会社が新しい価値を創造できると考えるからです。リクルートには兼業している人が1,000人以上います。
リクルートHDの事業や業務は多岐にわたりますが、すべてに共通しているのは人の可能性と価値を高めるビジネスであることです。仕事は働く人の可能性と価値を高めますが、自分に合わない仕事を続けていてはその達成は難しいでしょう。そこでリクルートHDは、さまざまな人に仕事の情報を提供しています。さらに結婚式の可能性を高めるにも、旅行の可能性を高めるにも情報が必要で、リクルートHDはそれも提供します。人の可能性を高める仕事はやりがいが大きいはずです。
そして「リクルート」といえば、会社を飛び出して起業する人が多い企業として知られていて「元リク」という言葉があるくらいです。リクルートHDや傘下企業にいた元リクたちが、そこで培った経験とスキルを使って自分でビジネスを始めるのは、リクルート名物の1つです。リクルートHDや傘下企業の人たちは、人々の可能性を広げながら自分の可能性を広げています。
企業名 | リクルートHD |