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企業説明

任天堂株式会社(以下、任天堂)のビジネスの強さは特筆に値します。任天堂の連結の年間売上高は1兆6,953億円で、連結従業員数は6,717人です。従業員1人が年間2.5億円(=1兆6,953億円÷6,717人)稼いでいる計算になります。時価総額ランキング国内1位のトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ自動車)は、連結年間売上高31兆3,795億円、連結従業員数372,817人なので、従業員1人当たりの年間売上高は8,417万円(=31兆3,795億円÷372,817人)です。トヨタ自動車の1人年8,417万円も相当すごい数字ですが、任天堂はその3倍になります。

ゲーム・ビジネスは世界規模の市場を形成しているので、莫大な利益を上げることが可能です。しかもゲームには国境がないので、外国語が苦手な日本人・日本企業でも海外のファンを獲得してグローバル展開できるチャンスがあります。

チャンスをものにして可能性を現実のものにして世界企業に成長した任天堂を研究していきます。

記事中のデータは2022年12月現在のものです。

任天堂の会社概要・活動内容

任天堂のビジネスモデルを研究するとき、当然ゲームに着目するわけですが、本稿ではあえて、そのシンプルさにフォーカスを当ててみます。任天堂の公式サイトの会社概要のページに事業内容が記されているのですが、ここには「家庭用レジャー機器の製造・販売」としか書かれてありません。そして任天堂の関係会社は30社にすぎません。

一方、ソニーグループの公式サイトの事業内容には「ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エンタテインメント・テクノロジー&サービス(モバイル・コミュニケーション/イメージング・プロダクツ&ソリューション/ホームエンタテインメント&サウンド)、イメージング&センシング・ソリューション、金融及びその他の事業」と書かれてあります。関係会社は1,600社以上になります。

 事業関係会社
任天堂家庭用レジャー機器の製造・販売30社
ソニーグループゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エンタテインメント・テクノロジー&サービス(モバイル・コミュニケーション/イメージング・プロダクツ&ソリューション/ホームエンタテインメント&サウンド)、イメージング&センシング・ソリューション、金融及びその他の事業1,600社以上

任天堂のビジネスは驚くほどシンプルです。経営の多角化が肯定され、「一本足打法」が批判的にみられる現代の風潮に、任天堂は完全に逆行しています。

会社概要

  • 本社住所:京都市南区上鳥羽鉾立町11-1
  • 代表取締役社長:古川俊太郎
  • 設立:1947年(創業1889年、明治22年)
  • 資本金:約100億円
  • 従業員数:6,717人
  • 東証プライム市場に上場
  • 連結売上高:1兆6,953億円(2022年3月期)
  • 大株主(多い順):日本マスタートラスト信託銀行(16.54%)、日本カストディ銀行(5.45%)、JPモルガン・チュース・バンク(5.43%)、京都銀行(4.16%)

任天堂は京都発祥の会社であり、世界的企業になっても京都に居続けています。社長の古川俊太郎氏は1972年生まれの50歳で、早稲田大学政治経済学部を卒業して任天堂に入社した生え抜きです。大株主に金融機関が名を連ねていることからも、任天堂はオーナー企業や一族経営ではないことがわかります。

任天堂のヒットの歴史
ゲームは「儲かるビジネス」とも「儲からないビジネス」ともいえます。ゲームがヒットすればその会社に莫大な利益をもたらしますが、有名企業でも連続してヒットを逃すと顧客(ゲーム・ファン)からそっぽを向かれ経営は一気に傾きます。面白いゲームをつくれない会社は、明日には市場から追い出されてしまいます。社長の古川氏はこの特徴を「この業界には天国と地獄しかない」と表現しています。だから任天堂は「独創的なものをつくれなったら存在価値がなくなる」という危機感を持ち続けています。したがって任天堂の歴史を知るには、ヒットの歴史を知っておく必要があるでしょう。

任天堂のヒットの歴史
1902年:日本で初めてトランプの製造に着手
1953年:日本で初めてプラスチック製トランプの量産を開始
1959年:ディズニーキャラクターを使ったトランプを販売
1973年:業務用レジャー・システム「レーザークレー射撃システム」を開発
1977年:家庭用テレビゲーム機「テレビゲーム15」などを発売
1980年:携帯型ゲーム機「ゲーム&ウォッチ」を発売
1981年:業務用テレビゲーム機「ドンキーコング」を販売
1983年:家庭用テレビゲーム機「ファミリーコンピュータ」を発売
1996年:NINTENDO64を発売
2006年:Wiiを発売
2017年:持ち運べる家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」を発売
2018年:オンラインサービス「Nintendo Switch Online」を開始(「あつまれどうぶつの森」など)

ゲーム・ファンはもちろんのこと、それほどゲームをしない人でも、任天堂のこの歴史は知っていると思います。そしてこの歴史のなかに数多くのイノベーションが隠れています。

任天堂のイノベーション
世界的な企業が必ずしていることが1つあり、それはイノベーションを生み出すことです。イノベーションは技術革新という意味で、イノベーション製品には人々の生活や経済や社会を一変させる力を持ちます。古くはテレビや冷蔵庫や自動車がイノベーション製品でした。そして最近の最もイノベーティブな製品といえばスマホではないでしょうか。スマホと任天堂のゲーム事業には共通の特性があり、それは、以前から存在するものを改良した「だけ」で、まったくの新しいものを生み出したわけではない、というものです。スマホは携帯電話にパソコン機能を搭載した「だけ」といえますし、任天堂はずっとゲームをつくっている「だけ」です。しかしこの「~だけしかしないこと」に、任天堂の強さがあります。

任天堂のヒットの歴史のなかに隠れているイノベーションの要素は以下のとおりです。

 出来事イノベーションの要素
1902年トランプの製造外国のゲームを自らつくる
1953年プラスチック製トランプ素材を紙からプラスチックに変更
1959年ディズニーキャラクター・トランプキャラクターの活用
1973年業務用レジャー・システム「レーザークレー射撃システム」電子化
1977年家庭用テレビゲーム機「テレビゲーム15」家庭ニーズの取り込み
1980年携帯型ゲーム機「ゲーム&ウォッチ」携帯型
1981年業務用テレビゲーム機「ドンキーコング」業務ニーズの取り込み
1983年家庭用テレビゲーム機「ファミリーコンピュータ」家庭ニーズの取り組みの強化
2017年持ち運べる家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」家庭用ゲームに、持ち運びの要素を追加
2018年オンラインサービス「Nintendo Switch Online」「あつまれどうぶつの森」のヒットインターネットの活用

このように任天堂のヒットの背景には、すべてイノベーションの要素が存在します。

紙のトランプがヒットしたら耐久性が高いプラスチック製トランプをつくり、それがヒットしたらキャラクターを描いて他社製品との差別化を試みます。ここに、任天堂のキャラクター・ビジネスの源泉をみることができます。そしてゲームに電子の時代が到来することを見越したかのように、業務用レジャー・システムを開発します。この電子化の技術は、家庭のゲームニーズや、ゲームセンターなどの業務用のゲームニーズを取り込むことに役立ちました。家庭用テレビゲームがヒットしてもそれに飽き足らず、自らつくりあげた「家庭用ゲームは家のなかでやるもの」という常識を壊し、持ち運べる家庭用ゲーム機、Nintendo Switchをつくりました。そしてゲームのネット化が拡大すると、オンラインサービスを展開してその波もとらえます。ゲームのネット化が遅れたと批判された任天堂ですが、オンライン・ゲームでも「あつまれどうぶつの森」を世界的にヒットさせて失地回復に成功しました。

ゲーム・ファンには、任天堂の変化は正常進化にみえるかもしれませんが、ビジネスやイノベーションの観点からすると、滅多に起きないはずの突然変異が何度も起きているように映ります。

任天堂の特徴や価値観

セガとナムコといえば、1980年代に任天堂と並ぶゲーム・メーカーでした。ところが株式会社セガはセガサミーホールディングス株式会社(以下、セガサミーHD)の傘下に入り、株式会社ナムコは株式会社バンダイと統合して共同持株会社の株式会社バンダイナムコホールディングス(以下、バンダイナムコHD)をつくりました。バンダイナムコHDは統合した理由について次のように述べています。

「世界のエンターテインメント業界では、技術革新によるネットワーク環境の普及と拡大により、グローバル競争が本格化してまいりました。また国内市場においては、少子化、趣味・娯楽の多様化が進む中で、安定した収益を持続的に確保していくためには、積極的な研究開発の推進や魅力ある商品やサービスの創造・提供による顧客獲得が強く求められております。このような変化と競争の激しい市場のなかで勝ち抜き、業容のさらなる拡大と深耕を図り、企業価値を向上させるためには両社が経営統合によって、共通の理念、戦略の下に、経営資源の選択と集中を図ることが、最良であると判断いたしました」

ナムコとバンダイの共同持株会社設立による経営統合に関するお知らせ

つまりゲーム企業やエンタメ企業は、技術革新、ネットワーク環境、グローバル競争、少子化、趣味と娯楽の多様化という津波に見舞われ、単独では生き残れなくなったのです。そのなかで任天堂だけが、単独で生き残っているだけでなく、輝かしい業績をあげ続けています。

任天堂とセガサミーHDとバンダイナムコHDの業績を比較してみます。

2022年3月期セガサミーHDバンダイナムコHD任天堂
連結売上高3,209億円8,893億円1兆6,953億円
当期純利益370億円928億円4,777億円
連結従業員数7,760人9,886人6,717人

連勝売上高は、セガサミーHDとバンダイナムコHDを足しても1兆2,102億円で、任天堂の1兆6,953億円に届きません。当期純利益では、前2社の合計額1,298億円(=370億円+928億円)は、任天堂の4,777億円の3分の1以下です。そして連結従業員数は、任天堂が3社のなかで最小になっています。

任天堂の最近の動向

任天堂の2022年4~9月期の連結決算は純利益が前年同期比34%増の2,304億円で、「あつまれどうぶつの森」のヒットの恩恵を受けた2020年4~9月期の2,131億円を超え、この期としては最高を記録しました。絶好調の任天堂ですが、海外のアナリストは、任天堂には課題があると指摘しています。アメリカのマイクロソフトが690億ドル(1ドル140円なら約10兆円)でゲーム開発のアクティビジョン・ブリザードを買収するのに対し、任天堂にはM&Aで規模を拡大する考えがないように映っています。ゲームにはますます没入感やバーチャル感が求められ、開発には莫大な予算が必要になります。そのためアメリカなどでは、世界のゲーム市場で勝ち残るには巨大M&Aが欠かせないという考え方が主流になっています。任天堂が世界の潮流にのって巨大M&Aを仕掛けるのか、それともこれまでどおり独自路線を突き進むのか注視する必要がありそうです。

任天堂での働き方・キャリア

任天堂の働き方・働かせ方とキャリア形成の特徴を紹介します。なお、任天堂の社員の平均年齢は39.8歳で、平均勤続年数は14.2年、平均年間給与は9,866,405円です。40歳前半で年収1,000万円に到達するイメージです。

多様性のある職場の実現
任天堂は同性婚を受け入れるパートナーシップ制度を設けています。婚姻関係に相当する同性パートナーがいる社員について、社内制度において婚姻と等しく扱います。さらに性的指向や性自認に関する差別的な発言やアウティング(性的指向などを本人の了承なしに公表すること)などを禁止しています。そして社長が全社員に向けて「悪意のない言動であっても当事者に大きな精神的苦痛を与える可能性がある」と注意喚起しています。多様性のある職場づくりは倫理的に優れているだけでなく、世界のすべての人が楽しめるゲームをつくっている会社として合理的な取り組みといえます。

仕事と生活の調和
ワークライフバランス関連では、任天堂には次のような制度があります。

育児休業:子供が満2歳になるまで取得可能(一般職の正社員は満3歳まで)
育児のための短時間勤務:子供が小学3年を修了するまで1日2時間まで勤務時間を短縮できる
海外配偶者同行休職:配偶者の海外勤務に同行するとき、最長5年間、休職できる
再雇用:育児や介護を理由に退職し、その後、再就職を望んだ場合、所定の手続きのあと再雇用を実施

従業員を大切にする会社であることは間違いなさそうです。

まとめ~偉業が普通のことにみえるすごさ

任天堂がNintendo Switchを発売したとき、多くの人は「任天堂なら当然」と思ったはずです。そして「あつまれどうぶつの森」がヒットしたときも、少なからぬ人々が「任天堂なら当然」と感じたはずです。任天堂は何度も事業を成功させていますが、どれも普通のことのようにみえます。任天堂は期待を裏切らない会社です。しかし、1つのヒットを飛ばすことでも難しいゲーム業界で、複数回連続して成功することは奇跡に近い偉業です。任天堂の社長は、ゲーム業界には天国と地獄しかないといい、任天堂は地獄に落ちずに天国に居続けています。そのプレッシャーは相当なものでしょう。そして任天堂は売上高の割に従業員数が少ないので、働く人1人ひとりも「天国に居続けるプレッシャー」と戦っているはずです。そのプレッシャーのなかで守りに入らず攻めの姿勢を続け、しかもゲーム一本に絞ってイノベーションを生み続けている任天堂は、奇跡の企業といっても過言ではありません。

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企業情報

企業名 任天堂