2023/06/05
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ソニー株式会社は2021年4月1日、社名をソニーグループ株式会社(以下、ソニーグループ)に変更しました。ただ「ソニー株式会社」の商号が消滅したわけではなく、エレクトロニクス事業を行っているソニーエレクトロニクス株式会社が「ソニー株式会社」(以下、ソニー)の名称を引き継ぎました。ソニーグループは電機業界に属しますが、売上全体に占める電機の割合は3割にすぎません。ゲームも金融も、映画も音楽もソニーグループの主力事業になっています。最近は自動車づくりにも着手しました。
「昔のSONY」の記憶をいったん消去して「今のSONY」をつかまえましょう。
記事中のデータは2022年11月現在のものです。
ソニーグループは「何屋なのか」を理解することは難しく、同社は自身のことを「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」会社であると認識しています。これを和訳すると「創造と技術で世界の人々を感動させる」となり、ますます「何屋なのか」わからなくなります。わかりにくい理由は、ソニーグループの売上高構成比をみればわかります。
ソニーグループの祖業である「電機≒エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション」は24.5%と約4分の1しかありません。「工場でつくるもの」というくくりで、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューションとイメージング&センシング・ソリューションを合わせても34.3%にしかなりません。
さらに「IT系」というくくりで、この2つにゲーム&ネットワークサービスを加えると60.9%になります。この数値まで達すると「ソニーグループはITに強い会社」ということができそうです。
ところが、ゲーム&ネットワークサービスと音楽と映画を「エンタメ系」としてくくると48.0%になり約半分に達するので「ソニーグループはエンタメ企業」ということもできます。
そして金融の売上が16.8%もあるのでこれも無視できるわけがなく、「ソニーグループは金融企業」ということもできます。ソニーグループの主な事業を深掘りして探ってみます。
CEOの吉田憲一郎氏はネットワーク部門に長く在籍しました。「電機だけではないSONY」はトップ人事にも及んでいることがわかります連結売上高は約10兆円で、時価総額は約14兆円。時価総額はトヨタ自動車に次ぐ国内2位です。大株主には金融機関が名を連ねます。
祖業であるエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューションとは
昔のSONYを知っている人は、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューションこそが「SONYらしい」と感じるかもしれません。この事業ではテレビ、スマホ、デジタルカメラ、ゲーム機本体、ロボット犬aibo、プロ用映像機器などの製品を製造、販売しています。
イメージング&センシング・ソリューション
イメージング&センシング・ソリューション事業の製品はBtoBのため一般にはあまり知られていません。イメージングセンサーとは、歪みのない高速撮像や高画質を生み出す技術です。エッジAIセンシングプラットフォームは、AI(人工知能)を使ったソリューションを導入した企業に必要な技術を提供するビジネスです。
高い知名度を誇るエンタメ事業
ソニーグループには一般の人がよく知っている事業もあります。
ゲームのプレイステーション、映画のスパイダーマンの他に、YOASOBIや宇多田ヒカル、スヌーピー、鬼滅の刃などのソニーミュージックもあります。
金融を担うのはソニーフィナンシャルグループ
ソニーグループの金融事業とは具体的には生命保険、損害保険、銀行で、ソニーフィナンシャルグループ株式会社(以下、ソニーフィナンシャルグループ)が統括しています。そしてソニーフィナンシャルグループの傘下にソニー生命保険株式会社やソニー損害保険株式会社、ソニー銀行株式会社などがあり、それぞれの事業を行っています。
さまざまな顔を持つソニーグループの同業他社を探すことは容易ではありません。そこで電機メーカーの三菱電機株式会社(以下、三菱電機)と、ゲーム大手の任天堂株式会社(以下、任天堂)と比較してみましょう。
三菱電機 | 任天堂 | ソニーグループ(再掲) | |
設立 | 1921年 | 1947年(創業1889年) | 1946年 |
資本金 | 1,758億円 | 約100億円 | 8,804億円 |
連結従業員数 | 145,696人 | 7,136人 | 108,900人 |
連結売上高 | 4兆4,768億円(2022年3月期) | 1兆6,953億円(2022年3月期) | 9兆9,215億円(2021年度) |
上場 | 東証プライム市場 | 東証プライム市場 | 東証プライム市場 |
連結売上高をみると、三菱電機と任天堂を足した6兆1,721億円(=4兆4,768億円+1兆6,953億円)は、ソニーグループの9兆9,215億円の6割強にしかなりません。ソニーグループはさまざまな事業を手掛け、それを成功させることによって巨大化している印象です。
ソニーグループの最近の動きで世間をアッといわせたのは、自動車づくりに乗り出したことでしょう。自動車業界では今、電気自動車(EV)が勢力を拡大していて、電気ならソニーグループでも可能になったわけです。そして自動車業界にはもう1つ大きなトレンドがあり、それはインターネットとつなげることです。通称「つながる車」は、自動車のさまざまな部品をインターネットにつなげることでカーナビの性能を向上させたり、運転を支援したり、車両データを吸収して次の開発に活用したりします。ITのSONYなら、つながる車でも優位に立てるかもしれません。
しかしソニーグループのEVは、さらにその先を行こうとしています。
VISION-Sのコンセプト
ソニーグループのEVの名称はVISION-Sといい、まだコンセプト段階で販売されていません。
ソニーグループらしさが出ているのはVISION-Sの車内設備でしょう。ソニーグループは自動車のなかをリビングのようなくつろぎとエンターテイメントの場所に変えようとしています。ソニーグループのお家芸である音響技術や映像技術、コンテンツ、ITをふんだん使い、快適空間を演出しています。
ホンダとの協業
ソニーグループと本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)は2022年3月に、EVを開発するソニー・ホンダモビリティ株式会社(以下、ソニー・ホンダ)を設立すると発表しました。両社の出資比率は50%ずつ。EVの自動車の部分をホンダが担い、他社のEVを差別化するための付加価値の部分をソニーグループが担います。自動運転や車内のデジタル化などを進めていきます。
2025年には1台目を発売する予定です。
ソニーグループの働き方・働かせ方とキャリア形成の特徴を紹介します。なお、ソニーグループの社員の平均年齢は42.6歳で、平均勤続年数は16.7年、平均年間給与は10,845,882円です。
SONY流フレキシブルワークとは
ソニーグループの働き方改革のキーワードはフレキシブルワークです。ソニーグループはこれまで、フレックスタイムや育児・介護短時間勤務、裁量労働制、テレワークなど、働きやすい働き方を積極的に導入してきました。また、ノー残業デーの実施率70%や超勤月80時間超の撲滅など、ブラック化対策とホワイト化施策を実施してきました。フレキシブルワークはこうした流れをくんだものです。
フレキシブルワーク=柔軟な働き方は、事務職には導入しやすく、技術職には導入しやすいと考えられていますが、ソニーグループは後者にも積極的に導入しています。例えば、イメージングプロダクトの設計担当の女性社員は、在宅勤務を月数回利用して、母親の介護や子供のイベントへの参加に使う時間を確保しています。この女性社員は設計職のフレキシブル化が簡単ではない理由を次のように説明しています。
「実際に部品をみたり、CADを扱ったり、自宅ではできない仕事があります。また、数人のグループで1台のデジタルカメラを設計するので、それぞれが担当している部品の結合部などは、その場で話し合いながら進めたほうが効率がいい場合もあります」
ではどのように月数回の在宅勤務を実現したのかというと、自分の仕事を整理して、家でできる解析や資料づくりといった仕事をまとめ、それを家に持ち込んだのです。ソニーグループには、会社が働き方改革に乗り出し、社員が自分の仕事を見直してフレキシブルワークを進める土壌があるようです。
就職活動を控えた大学生はもう「SONYに入社したい」と思うことはできないでしょう。なぜなら「SONY」だけでは、どのようなプロダクトなのか、どのような仕事なのかまったくわからないからです。SONYがソニーグループに名称を変更したのは「グループ」という大きな網でしかこの企業群をくくれないからです。自分のしたいことが明確でないと、SONYの大海原を泳ぎ切れないでしょう。そして自分のビジョンが明確であれば、SONYは働き甲斐のある仕事を提供してくれるはずです。
企業名 | ソニーグループ(SONY) |