2023/06/05
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西村あさひ法律事務所のキャッチフレーズは「リーダーとしての自覚とともに法的インフラの発展を目指して」。
「リーディング・ファーム」ではなく、自らを「リーダー」と断言しています。これは、所属弁護士数国内トップの自負と考えてよさそうです。
また、法律事務所や弁護士は法的インフラを「使う側」ですが、キャッチフレーズではこれを「発展させる」ともうたっています。
同事務所は法律を研究する組織を持っていて、これが法的インフラを発展させる事業を担っています。
大学の法学部に所属して弁護士を目指している学生なら、同事務所を研究しないわけにはいかないでしょう。
そこでこの記事では、同事務所の概要や活動の特徴、最近の動向などを紹介します。
西村あさひ法律事務所の業務分野には「コーポレート」や「事業再生・倒産」「争訟」といった、法律事務所らしい名称がある一方で、「リアルエステート」「インフラ、エネルギー、資源」「アグリフード」「IT、メディア、エンタテイメント」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」といった、事業会社のビジネスのような名称も存在します。
このことから同事務所の2つの大きな特徴がみえてきます。
西村あさひ法律事務所の2大特徴
同事務所の業務内容については後段でさらに詳しく解説します。
事務所概要
西村あさひ法律事務所の概要を紹介します。
「西村あさひ法律事務所」となったのは意外と最近で2007年です。このとき、西村ときわ法律事務所とあさひ法律事務所の国際部門が統合しました。
弁護士が792人もいますが、所属弁護士たちの立場はさまざまです。
パートナーは一般的には法律事務所の共同経営者と理解されます。その重要なポジションにあるパー
ナーが232人もいます。
アソシエイトは若手弁護士や補佐的な業務を行う弁護士、または月給制の弁護士といった意味合いがあります。その数478人。「上を目指す」弁護士がこれだけいることがわかります。
オブカウンセルはパートナー以下、アソシエイト以上の弁護士と理解されています。
カウンセルは顧問と訳されることが多く、やはりパートナー以下、アソシエイト以上の弁護士といえます。
ただ792人のなかには、日本の弁護士制度上の弁護士以外にも、海外の弁護士制度上の弁護士も含まれている可能性があります。その内訳は公表されていません。
そして上記の概要のなかで最も特徴的なことは、海外拠点の多さでしょう。
欧米、中国、中国以外のアジア、中東と、世界中に同事務所のネットワークが敷かれています。
「世界で活躍したい」と考えている弁護士志望者にとって同事務所は、憧れのローファームになっているのではないでしょうか。
業務の種類~ほぼすべてのビジネス上の法的課題を網羅
同事務所はあまりに大きすぎてその規模感を測れない人もいると思います。そこで同事務所の業務内容をすべて紹介します。ただし、これでも国内業務だけであり、この他に海外業務があります。
M&A | 企業組織再編、ジョイント・ベンチャー、敵対的買収、アクティビスト対応、プライベート・エクイティ、スタートアップ・プラクティス (ベンチャー支援) 、クロスボーダーM&A |
コーポレート | コーポレートガバナンス、株主総会、会社関係争訟、社団/財団法人、その他一般企業法務 |
ファイナンス | キャピタルマーケッツ、バンキング、保険金融業規制/コンプライアンス、アセットマネージメント/ファンド、REIT/不動産ファイナンス、ベンチャーファイナンス、証券化/流動化、航空機・船舶・その他アセットファイナンス、プロジェクトファイナンス、買収ファイナンス、デリバティブ、FinTech、証券争訟/金融関連争訟、国際金融法務 |
リアルエステート | REIT/不動産ファイナンス、不動産取引・紛争、環境法 |
事業再生/倒産 | 会社更生/民事再生、破産、特別清算等清算手続、私的整理、アーリーステージ・リストラクチャリング、グローバル・リストラクチャリング(国際倒産等) |
争訟 | 一般民事訴訟、会社関係争訟、知的財産争訟、税務争訟、行政争訟、労働争訟、年金争訟、消費者争訟(消費者集合訴訟等) 、証券争訟/金融関連争訟、製造物責任争訟、保険関係争訟、裁判外紛争処理(仲裁、調停、その他ADR手続) 、危機管理・企業不祥事関連争訟、独占禁止法/競争法違反に係る民事訴訟、営業秘密関連争訟、投資家対国家紛争(ISDS) 、国際訴訟(クロスボーダー訴訟、外国訴訟) 、国際仲裁 |
知的財産法/情報法 | 知的財産取引、知的財産争訟、商標・意匠出願、模倣品対策/ブランド管理、営業秘密保護/不正競争防止、個人情報・プライバシー、ビッグデータ、ITシステム/クラウド、通信・放送法 |
危機管理 | 危機管理一般、コンプライアンス、社内調査・外部調査(企業不祥事) 、粉飾決算、インサイダー取引、相場操縦、金融商品取引法違反対応、FCPA、贈賄規制違反、政治資金規正法等、カルテル・談合、独占禁止法違反対応、海外での独占禁止法/競争法違反対応、下請法営業秘密・情報漏洩、サイバーセキュリティ、製品・食品の事故・偽装等、役職員による横領等の不正、内部通報等、マネーローンダリング、企業不祥事に対する海外当局調査対応、危機管理・企業不祥事関連争訟 |
独占禁止法/競争法 | カルテル・談合、独占禁止法違反対応、海外での独占禁止法/競争法違反対応、下請法、独占禁止法/競争法違反に係る民事訴訟、独占禁止法/競争法違反防止措置、企業結合審査 |
税務 | タックス・プランニング、税務問題アドバイス、税務争訟、国際税務 |
労働/人事 | 労働法アドバイス、年金問題アドバイス、ビザ/出入国関連、労働争訟、年金争訟 |
消費者法 | 消費者契約法、景品表示法、製造物責任/製品安全/リコール対応、消費者争訟(消費者集合訴訟等) 、消費者団体関連 |
通商法/投資法 | WTO/経済連携協定(TPP、EPA、FTA) 、投資協定アンチダンピング/貿易救済、関税関連法、政府調達、安全保障貿易管理、経済制裁 |
国際関係法務 | 国際取引全般、クロスボーダーM&A、国際金融法務、投資家対国家紛争(ISDS) 、国際訴訟(クロスボーダー訴訟、外国訴訟) 、国際仲裁、グローバル・コンプライアンス、グローバル・リストラクチャリング(国際倒産等) 、国際税務 |
ウェルスマネジメント | 遺産相続、事業承継、社団/財団法人 |
公益的活動 | ロビイング/行政機関との協力、大学・大学院・ロースクールでの教育活動、公益活動、ダイバーシティ&インクルージョン |
インフラ/エネルギー/資源 | PPP、電力・ガス、資源/エネルギー |
アグリフード | 農林漁業法務、アグリ・フードテック、グローバルフードバリューチェーン |
IT/メディア/エンタテイメント | 通信、放送、インターネット関連/サイバー法、映画、エンタテイメント、スポーツファッション |
ライフサイエンス/ヘルスケア | 医薬品/医療機器、医療/ヘルスケア、医療関連ITシステム/メディカルクラウド、バイオテクノロジー |
テクノロジー | エレクトロニクス、自動車・自動車部品、航空・宇宙、ロボット/AI、ケミカル |
デジタルトランスフォーメーション(DX)/デジタルイノベーション | Society5.0/スマートシティ/MaaS/IoT、デジタルプラットフォーム/シェアリングエコノミー/サブスクリプション、イノベーション/オートメーション/ブロックチェーン/電子契約、DXガバナンス/事業ポートフォリオマネジメント |
上記の表は、同事務所の公式サイトからの引用になります。ほぼすべてのビジネス上の法的課題を網羅していると考えてよいでしょう。
これだけ詳しく業務内容を公表している法律事務所はほとんどみかけません。すなわちこの表は、同事務所の「企業案件、ビジネス案件はすべてお任せください」という自信の現れとみることもできます。
難しい事案に果敢に挑む
上記の表で注目したいのは、難解事案に果敢に取り組んでいるところです。
不動産紛争、消費者集団訴訟、企業不祥事争訟、投資家対国家紛争、国際訴訟、粉飾決算、相場操縦、贈賄規制違反、政治資金規正法、カルテル、談合、政府調達、経済制裁といった項目が並んでいます。
これらはどの法律事務所でも扱える、といった案件ではありません。
そして、企業がこれらのいずれか1つにでも巻き込まれたら、あるいは1つでも引き越してしまったら、経営を揺るがす事態になりかねません。
同事務所は企業の防波堤といえそうです。
西村あさひ法律事務所には、他の法律事務所にはない特徴がいくつもありますが、その最たるものは法律を研究する組織を有していることでしょう。
冒頭で紹介したとおり、同事務所は法的インフラを発展させるというミッションを掲げています。
西村高等法務研究所がその担い手になります。
西村高等法務研究所~理論と実務を統合して日本の法律実務の水準を高める
西村高等法務研究所は2007年に、東京大学名誉教授を所長に迎えて設立されました。
ミッションは、理論と実務を統合して日本の法律実務の水準を高めること。根本的な解決を目指さない対処療法的な法務や問題発生を回避するだけの予防的な法務を抜け出し、戦略的法務を実践していくことを目的としています。
弁護士などの法務の実務家に先端的な提言を行ったり、専門書の出版に携わったり、講演会を開催したりして、日本の法律実務の底上げを図っていきます。
西村あさひ法律事務所の最近の目立った活動などを紹介します。
「頼りがいがある法律事務所」1位から2位に転落
日本経済新聞が2022年に、主要企業の法務担当者に対し「頼りがいがある法律事務所」に関するアンケートを行いました。その結果、同事務所は2位で、前年のトップから陥落してしまいました。
ちなみに1位は、やはり5大法律事務所の1つ長島・大野・常松法律事務所で、こちらは前年の4位からの躍進でした。
西村あさひ法律事務所は総合では2位だったものの「弁護士の知識や経験が豊富」の項目では1位でした。
ホンダのアメリカでのバッテリー事業に助言
本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)は2022年10月、韓国のLGエナジーソリューションとの合弁で、EV(電気自動車)用のリチウムイオンバッテリー生産工場をアメリカ・オハイオ州に建設すると発表しました。
このときホンダに助言をしたのが、同事務所でした。
ホンダはLG側と合弁会社を設立し、工場は2024年末までに完成する予定です。工場では2,200人を雇用し、総投資額は44億ドル(1ドル130円なら5,720億円)になります。
海外の事情に精通し、自動車業界に精通し、環境問題に精通している同事務所だから「世界のホンダ」に「世界のLG」との合弁案件を助言できたのでしょう。
西村あさひ法律事務所の働き方・働かせ方とキャリア形成の特徴を紹介します。
育成の観点は、事務所のノウハウを所属弁護士と共有すること
同事務所の新人弁護士は2カ月の新人セミナーを受けたあと、指導担当パートナー制度のなかで鍛えられます。
指導、育成のコンセプトは、同事務所が長年蓄積してきたノウハウを所属弁護士と共有すること。同事務所内の知見を出し惜しみすることなく、若手弁護士に注ぎ込んでいきます。
指導担当パートナー制度では、1人の新人弁護士に3、4人のパートナー(弁護士)が割り当てられ育成していきます。
同事務所は弁護士たちの個性を尊重するので、指導担当パートナーは、新人弁護士が希望する業務分野のスペシャリストが選ばれます。
そのため新人弁護士は最短ルートで一人前の弁護士になることができるはずです。
留学や出向で知識と経験を増やす
同事務所では留学制度や出向が充実しています。
若手弁護士が海外のロースクールやビジネススクールに留学する場合、出願準備などを補助します。留学中の学費など、経済的なサポートも充実しています。
留学後もしばらく海外にとどまり、現地の法律事務所で研修を受けることもできます。
そしてこれは「西村あさひならでは」のことではありますが、所属弁護士は官公庁、行政機関、金融機関、事業会社などに出向することができます。
法律事務所の弁護士としてクライアントをサポートするのではなく、クライアントのなかに入って組織のメンバーとして行政活動や経済活動を支えていくわけです。
西村あさひ法律事務所については、その「正体」を知れば知るほど、日本一と呼ばれることの凄みを感じるのではないでしょうか。
大学の法学部を卒業する学生は、一般的にエリートの道に進むことができると考えられていて、そのなかでも弁護士資格を取得した人はエリートとみなされます。
しかし同事務所には、エリート中のエリートしか入ることができません。
それでも一度弁護士の道を目指したのであれば、そして、本物のエリートになりたいと考えるのであれば、難関に挑戦する価値はあるはずです。
企業名 | 西村あさひ法律事務所 |