製薬業界を研究する【内定までの業界研究#14】 - ATLAS(アトラス)〜未来をつくるリーダーへの就活キャリアサイト〜

この記事では、メーカーのなかでも製薬メーカーについて解説します。

日本の製薬業界について、どのようなイメージを持っているでしょうか。「日本の製薬メーカーは世界有数のはず」でしょうか。「欧米には水をあけられているのではないか」でしょうか。

どちらもイメージも正しいといえます。売上高が「兆円」規模になり世界で戦っている日本の製薬メーカーがある一方で、世界トップ10に入っているのは武田薬品工業だけで、しかも10位です。人の健康を守り命を救う薬をつくる製薬メーカーは、就活を控えた大学生も注目しているのではないでしょうか。

この記事では、製薬業界のビジネスモデルや有力中心企業、業界の特徴、最近の動向、給与などを紹介します。

製薬メーカーのビジネスモデル~どうやって稼いでいるのか

製薬サブ1

製薬メーカーのビジネスモデルは大きく2つあります。

1つ目は新薬の開発、製造、販売です。2つ目はジェネリック医薬品(後発薬、以下、ジェネリック)の製造・販売です。どちらのビジネスモデルも、薬をつくって売るという点は共通していますが、新薬とジェネリックはまったく別の商品を考えたほうがよいでしょう。それで製薬メーカーのビジネスモデルは2つある、とらえたほうがよいわけです。

そして製薬メーカーのビジネスモデルには、1)人の健康と命に直結する、2)医療機関が関わる、3)国の規制が厳しい、という特徴もあります。この3点は、他の業界ではあまり見られません。

新薬のビジネスモデル

新薬のビジネスモデルを一言で紹介すると「ハイリスク・ハイリターン」となるでしょう。

新薬の開発は、ときに1,000億円規模の予算が必要になり、それでも販売にこぎつけられるかどうかわかりません。新薬は、従来の薬より安全で高い効果を出さなければ売れないからです。したがって新薬には、時代が経るごとに開発が難しくなるという性質があります。ところが画期的な新薬を販売できると、1人分で「千万円」規模、「億円」規模の売上になることもあります。

新薬は、探索研究→前臨床試験→臨床試験→承認審査を経てようやく使用が可能になるため、その期間は10年を超えることも多いです。一方、新薬の販売にこぎつけることができれば、最長10年間、特許で守られた状態でビジネスを進めることができます。つまり10年間にわたって、「あの病気を治すにはこの薬を使うしかない」という独占状態になり、医薬品メーカーに莫大な利益をもたらします。

ジェネリックのビジネスモデル

ジェネリックのビジネスモデルでは、原則、研究開発が不要になります。「原則」というのは、ジェネリックでも飲みやすくしたり効果を出しやすくしたりする研究開発が必要なので、ジェネリック製薬メーカーで研究開発がまったくないわけではないからです。しかしジェネリックは、先行薬(新薬として販売された薬)の成分をベースにつくるので、研究開発費も研究期間もかなり抑えられます。

また、先行薬が臨床試験や承認審査を終えているので、ジェネリックの承認審査は新薬のそれより簡易になっています。ジェネリック・ビジネスには、ライバルが多いという欠点があります。ジェネリックは新薬の特許期間が切れたあとにつくることができるので、他社もつくることができます。

そして医療機関や医師は、コストを考えてジェネリックを使うので安さが重要になります。つまり価格競争に巻き込まれるリスクがあります。ジェネリック業界では「値引きの攻防戦」が繰り広げられているといいます。

1)人の健康と命に直結する、2)医療機関が関わる、3)国の規制が厳しい

製薬ビジネスでは、製薬メーカーがいくらよい製品をつくっても、すぐに顧客(この場合、患者さん)に届けることができません。医薬品を販売するには薬機法のルールをクリアして、厚生労働省と都道府県の規制当局の許可・承認を得なければならないからです。

また、使う薬を決めるのは医師です。そのため製薬メーカーにとって最終的な顧客は患者さんですが、医師も顧客になります。また「代金を支払う人」も特殊で、薬代は患者さんだけでなく、公的医療保険を運営している機関も支払います。医薬品ほど厳しい規制がかけられている化学製品、工業製品は他に見当たりません。これだけ厳しいのは、医薬品が人の健康と命に直結するからです。

有力中心企業は武田、大塚、アステラス

薬大国ニッポンだけあって、年間売上高80億円以上の医薬品メーカーは40社以上あります。

そのなかで年間売上高トップ3は、武田薬品工業(3.2兆円)、大塚ホールディングス(1.4兆円)、アステラス製薬(1.2兆円)です(2020年度)。

この3社を紹介しながら医薬品業界を概観していきます。

3社の会社概要、メインの商品・サービス、企業理念の紹介

3社の会社概要は以下のとおりです。いずれも連結です。

製薬業界比較表

武田薬品の創業は明治より前になります。

大塚ホールディングスの設立が2008年と「若い」のはホールディングス形態に移行したためで、傘下の大塚製薬の設立は1964年です。

各社の理念は以下のとおりです。

武田:タケダイズム(誠実・公正・正直・不屈)を根幹に、優れた医薬品の創出を通じて人々の健康と医療の未来に貢献する

大塚:Otsuka-people creating new products for better health worldwide(「大塚人」は世界の人々の健康に貢献する新製品を生み出す)

アステラス:先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する

3社の売上高と営業利益と純利益の比較

3社の直近3年間の売上高と営業利益と純利益を見てみます。いずれも連結です。

製薬業界売上高比較表
製薬業界営業利益比較表
製薬業界純利益比較表

売上高から3社とも「兆円」企業であることがわかります。そして武田の2020年度の売上高は、大塚とアステラスを足した額より多くなっています。そして「武田>大塚+アステラス」の傾向は、営業利益と純利益でも同様です。2018年度をみると、売上高、営業利益、純利益ともに、アステラスが大塚を上回っています。2018年度と2019年度の営業利益と純利益は、アステラスが1位です。

このようにトップ3社は熾烈なシェア争いを展開しています。

製薬業界の特徴

人類はさまざまな病気にかかり、世の中にはさまざまな薬が存在します。それらをすべてつくっている製薬メーカーはなく、それぞれ得意分野を持っています。企業によって商品の種類が大きく異なるのは、他の業界ではあまりみられない、製薬業界の特徴といえます。

例えば武田は、消化器系疾患、希少疾患、血漿分画製剤、オンコロジー(がん)、ニューロサイエンス(神経精神疾患)の薬の開発を得意にしています。そして武田は、北米、欧州で事業展開するグローバル企業でもあります。

大塚ホールディングスは、自社の事業の核をヘルスケアとしています。つまり大塚ホールディングスにとって製薬事業は、多くの事業のうちの1つとなります。ご存知のように、ポカリスエットやオロナミンC、ボンカレー、クリスタルガイザーも大塚ホールディングスの主要商品です。製薬にフォーカスすると、統合失調症の薬、利尿剤、胃がんの薬、てんかんの薬、パーキンソン病の薬などを製造、販売しています。

アステラスもアメリカ、ドイツ、フランス、スペイン、アイルランド、オランダ、中国、韓国に進出するグローバル企業です。アステラスの主要製品は、前立腺がん治療剤、過活動膀胱(OAB)治療剤、急性骨髄性白血病治療剤、尿路上皮がん治療剤、腎性貧血治療剤などとなっています。

世界のなかの日本の薬の立ち位置

世界で最も売上高が大きい製薬メーカーは、スイスのロシュで、624億ドルです(20220年12月期、以下同)。2位もスイス・メーカーのノバルティス(487億ドル)です。
以下、3位メルク(アメリカ)、4位アッヴィ(アメリカ)、5位J&J(アメリカ)、6位GSK(イギリス)、7位ブリストル(アメリカ)、8位ファイザー(アメリカ)、9位サノフィ(フランス)、そして10位に武田です。アメリカ企業はトップ2こそ逃しているものの、トップ10に5社が入っています。

つまり国別では、世界1はアメリカで、2位スイス、3位イギリス、4位フランス、そして日本は5位です。

製薬業界の最近の動向~マスコミ報道から

製薬サブ2

最近のマスコミ報道から、製薬業界の動向を探ってみます。

日本経済新聞は2022年1月11日、「武田薬品、英スタートアップを買収 次世代がん領域強化」と報じました。武田が買収するイギリスのスタートアップ(企業)はアダプテート・バイオセラピューティクスといい、人間の体内の免疫細胞を使い固形がんを攻撃する技術を持っています。抗がん剤ががん細胞だけを攻撃すれば、健康な正常細胞を傷つけないので安全性や有効性が高まるといいます。武田は2021年にもイギリスのがん治療技術を持つ企業の買収を発表していて「がんに強い武田」を目指しています。

大塚は日本経済新聞に「食品好調も問われる医薬の成長性」と指摘されています。2021年9月の記事です。同紙は、国内製薬業界売上高2位の大塚ホールディングスは稼ぐ力を回復させているが、それはポカリスエットなどの健康食品が売上高に貢献しているのであって、医薬品事業の成長性については懸念の声がある、としています。

アステラスは2022年1月に国内の営業体制を再編すると発表しました。営業担当者を地域担当から疾病領域担当に変えることで、専門性を高めていきます。新型コロナによって、製薬メーカーが医療機関に情報を提供する方法が変わったことで営業スタイルを変える狙いです。また営業拠点を減らしてデジタル技術を導入します。これは生産性の向上に寄与することでしょう。

以上のニュースから、最近の製薬業界は次のような状態に置かれていることがわかります。

・世界で稼ぐ姿勢が鮮明
・薬以外の事業も重要
・生産性の向上が急務なのは製薬業界も例外でない

給与水準

武田、大塚、アステラスの給与水準を確認します。

・武田(2020年度有価証券報告書から)

平均年齢42.0歳、平均勤続年数14.5年、平均年間給与10,766,000円

・大塚(2020年度有価証券報告書から)

平均年齢44.1歳、平均勤続年数3.6年、平均年間給与9,916,447円

・アステラス(2020年度有価証券報告書から)

平均年齢43.0歳、平均勤続年数17.1年、平均年間給与10,514,375円

3社とも40代前半で1,000万円プレイヤーになれそうです。

大塚の平均勤続年数が3.6年と極端に短いのは、ホールディングスだからでしょう。傘下子会社とホールディングスを行き来すると、ホールディングス(大塚)での勤続年数が短く算出されてしまいます。

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