重工業業界を研究する【内定までの業界研究#15】 - ATLAS(アトラス)〜未来をつくるリーダーへの就活キャリアサイト〜

この記事では、メーカーのなかでも重工メーカーについて解説します。

重工業の定義は幅広く、『精選版 日本国語大辞典』では「容積・重量の大きな財貨を製造する工業」となっています。もしくは、鉄鋼業、製鋼業、非鉄金属工業、造船業、車両製造業、機械製造業、化学工業などをまとめて重工業と呼ぶこともあります。

ただ、鉄鋼や車両製造などはそれぞれで業界を形成しているので「重工」というイメージが薄いかもしれません。

そこで本記事では、航空や防衛、大規模プラントなど、他の重工メーカーがあまり携わらないものを製造している三菱重工業(以下、三菱重工)、川崎重工業(以下、川崎重工)、IHIを重工業界の代表と考えて、そのビジネスモデルや企業が置かれている現状などを解説します。

重工メーカーのビジネスモデル~どうやって稼いでいるのか

重工業サブ1

重工業界を概観するのに三菱重工、川崎重工、IHIの3社だけに絞ったのは、絞っても守備範囲がとてつもなく広いからです。

3社は次のようなビジネスを展開しています。

■三菱重工のビジネス

  • エネルギー
  • 航空宇宙開発船舶・海洋交通システム物流・運搬環境装置自動車関連産業機械インフラ設備生活・レジャー防衛エンジニアリング

■川崎重工のビジネス

  • 輸送用機器
  • エネルギー
  • 産業用設備
  • レジャー

■IHIのビジネス

  • 資源・エネルギー・環境
  • 社会基盤・海洋
  • 産業システム・汎用機械
  • 航空・宇宙・防衛

これだけでも「多い」と感じるかもしれませんが、これは大枠にすぎません。この大枠のなかにさまざまなビジネスや事業が詰まっています。

例えば三菱重工のエネルギーには、火力発電、自然エネルギー発電、原子力発電、エンジン発電、分散型トータルエネルギー・ソリューション、石油・ガス生産、が含まれています。

IHIの産業システム・汎用機械には、圧縮機、分離機、最先端ターボ機械、給油装置、車両用過給機、パーキングシステム、物流システム、運搬機械、製鉄用工業炉、熱・表面処理、ファクトリーソリューション、製紙・パルプ機械、舶用機械、農業機械、汎用ボイラ、生活関連機器、が含まれています。

1つひとつの事業領域は、そのなかに会社が1つあってもおかしくないくらいのものです。

3社とも「兆円企業」なので、10億円企業を1,000社以上集めたような会社が3つある、とイメージしてもよいかもしれません。

三菱重工のビジネスモデル

重工業界を代表する3社を代表して、三菱重工のビジネスモデルを掘り下げてみましょう。

三菱重工を最も簡単に紹介すると、ものづくりの会社、となります。では何をつくっているのかというと、以下のとおりです

<ものづくり企業、三菱重工がつくっているもの>

  • 火力発電システム
  • 原子力発電システム
  • 風力発電システム
  • 航空機用エンジン
  • コンプレッサ
  • 環境プラント
  • 舶用機械
  • 製鉄機械
  • 船舶
  • エンジニアリング
  • 環境設備
  • 機械システム
  • 工作機械
  • 物流機器
  • ターボチャージャー
  • エンジン
  • 冷熱製品
  • カーエアコン
  • 民間航空機
  • 防衛航空機
  • 飛しょう体
  • 艦艇
  • 特殊車両
  • 特殊機械(魚雷)
  • 宇宙機器

三菱重工のビジネスモデルの1つは、多くのものをつくることです。いくら大規模ものづくりメーカーであっても、この種類の多さはよい意味で異常です。例えば、本田技研工業は自動車メーカーのなかでもいろいろなものをつくっているほうですが、それでも自動車、バイク、パワープロダクツ、飛行機、ロボットぐらいです。

三菱重工の2つ目のビジネスモデルは、子会社を多く持っていることです。エネルギー分野の連結子会社だけでも、三菱パワー、三菱重工航空エンジン、三菱重工コンプレッサ、三菱パワーインダストリー、三菱重工マリンマシナリ、Mitsubishi Power Aero LLC(アメリカ)、Mitsubishi Power Americas, Inc.(アメリカ)、MHI Holding Denmark ApS(デンマーク)、Mitsubishi Power Europe GmbH(ドイツ)などがあります。

連結子会社だけで263社あり、さらに持分法適用会社が29社あります。

したがって三菱重工は、自らがものづくりメーカーでありながら、子会社などのメーカーを統括する仕事も持っています。

3つ目のビジネスモデルは、人々の生活と命に関わる仕事のうち、規模が大きくて金額が高く、つくるのが難しいものをつくっていること、です。

発電システムがなかったら人々の生活は立ち行かなくなるでしょう。防衛関連のものがなかったら他国の侵略を許すことになるでしょう。そしていずれも、どのものづくりメーカーでもつくれるものではありません。高い技術力が必要ですし、大型投資が不可欠なので相当強靭な企業体力が求められます。

3つのビジネスモデルをまとめると、日本に絶対に必要で、世界も必要としていて、重工メーカーでなければつくれないものをつくっている、となります。

そしてこのビジネスモデルは、川崎重工もIHIも同じです。

三菱重工、川崎重工、IHIを比較する

似たビジネスモデルを持つ三菱重工、川崎重工、IHIですが、異なるところも多くあります。

3社を複数の基準で比べてみましょう。

3社の会社概要、メーンの商品、企業理念の紹介

3社の会社概要は以下のとおりです。

重工業界比較表

最も古いのはIHIで、水戸藩の徳川斉昭が幕命により江戸・石川島の地に造船所を創設したのが起源になります。

歴史なら三菱重工も負けてなく、かの岩崎彌太郎が政府から工部省長崎造船局を借り受けて長崎造船所をつくったことに始まります。

川崎重工は神奈川県川崎市にある会社ではなく、創業者川崎正蔵の名字が社名になっています。創業の地は東京・築地で、当初の社名は川崎築地造船所でした。

3社とも造船(船づくり)から始めています。

3社の売上高と営業利益と純利益の比較

3社の直近3年間の売上高と営業利益と純利益をみてみます。

重工業界売上高比較表
重工業界営業利益比較表
重工業界純利益比較表

売上高をみると、三菱重工が頭1つ飛び抜けていることがわかります。2020年度の三菱重工の売上高は、川崎重工の2.5倍、IHIの3.3倍となっています。

ただ営業利益をみると、その三菱重工でも2019年度に赤字に陥っていますし、川崎重工も2020年度は赤字です。そしてIHIの営業利益も2018年度825億円→2019年度608億円→2020年度112億円と安定しません。

純利益にいたっては3社とも安定していません。

この重工3社に限っていえば、利益の不安定さはそれほど深刻に考える必要はないでしょう。3社のプロジェクトは1件1件の規模が大きいので、利益が出るときは大きく儲かり、そうでないと損失を生んでしまうからです。

これは国家プロジェクトを担う企業の宿命といえます。この3社が担っている仕事は、この3社でしかできないと考えることができます。

重工業界の特徴

重工業界の特徴について川崎重工のトップは次のように述べています。

新興国における急速な産業の発展や人口増加などに伴う環境悪化リスクの懸念、先進国における高齢化の進展に伴う労働人口の減少に加え、航空・物流網の発達やインターネットの普及によりグローバル化が進む中で、新型コロナウイルスによるパンデミックの発生により、いま世界は激動の変革期を迎えています。そして、わたしたちのライフスタイルやビジネススタイルなど、従来の価値をあらためて問い直さなければいけない機会に直面しています。当社グループは1896年の創立以来、120年以上にわたり、陸・海・空の幅広い事業分野で、ものづくりを通じて高い技術・知見を培ってきました。それぞれの時代において、最先端の技術をベースにさまざまな価値を提供してきましたが、常に世界の人々の多様な要望に応える製品・サービスを時代の変化に合わせて提供し、お客様と社会の可能性を切り拓く力になることが、当社グループの掲げるミッション「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献するGlobal Kawasaki」の実現に繋がるものと確信しています。

この言葉から、重工業界に関心事は、人口増、環境問題、高齢化問題、グローバル化、新型コロナウイルスと、地球規模であることがわかります。重工業界に務めるのであれば、視野を高く広く深く持つ必要があるでしょう。

そして活躍の舞台も陸海空となっていて、つまり地球のすべてです。宇宙の仕事もしています。

これらの重要かつ壮大な仕事を、ものづくりを通じて果たしていくのが重工企業の使命です。

重工業界の最近の動向~マスコミ報道から

重工業サブ2

最近のマスコミ報道から、重工業界の動向を探ってみます。

三菱重工は今、水素パークをつくっています。かわいらしいネーミングですが、ここでは水を電気分解したり、メタンを熱処理したりして水素を取り出して、燃焼技術の構築を目指しています。水素エネルギーを有効活用するための実験、研究、開発を行う場所なので、さまざまな人やものが集まる「パーク」という名称をつけたのでしょう。

ここで開発された最新型の複合発電プラントは、燃焼温度1,650度、発電効率64%という世界最高レベルの機能を誇るといいます。日本はエネルギー小国ですが、水素なら自由に無限に確保できます。

三菱重工は防衛関連も製造していますが、水素も安全保障に欠かせないピースと考えることができるので、同社の仕事になっているのでしょう。

川崎重工がなぜ、と思うかもしれませんが、同社は新型コロナ対策に欠かせないPCR検査を行うロボットを開発しました。川崎重工はロボットが得意で、その技術を応用したこのロボットを使えば、1日2,500人分の検査を全自動で行えます。PCR検査ロボットの開発責任者は「新型コロナとの戦いにロボットで貢献できないか」と考えたと述べています。

社会貢献は重工業界で働く人たちのDNAに刷り込まれているようです。

給与水準

三菱重工、川崎重工、IHIの給与水準を確認します。

三菱重工(2020年度有価証券報告書から)

平均年齢41.3歳、平均勤続年数18.2年、平均年間給与8,598,800円

川崎重工(2020年度有価証券報告書から)

平均年齢39.4歳、平均勤続年数14.1年、平均年間給与6,994,041円

IHI(2020年度有価証券報告書から)

平均年齢39.4歳、平均勤続年数15.1年、平均年間給与7,658,177円

川崎重工が若干少ない印象がありますが、それでも40歳前に約700万円に到達しています。三菱重工は40代で800万円をゆうに超え900万円に届く勢いがあります。

IHIは両者の中間です。

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