医療機器業界を研究する【内定までの業界研究#16】 - ATLAS(アトラス)〜未来をつくるリーダーへの就活キャリアサイト〜

この記事では、メーカーのなかでも医療機器メーカーについて解説します。

医薬品医療機器総合機構は医療機器のことを「メスやピンセットのような小物類から、体内に植え込む治療用の心臓ペースメーカ、CTやレントゲン装置、放射線治療装置などの大型のものまで多種多様」と説明しています。そしてコンタクトレンズ、救急絆創膏、体温計や電子血圧計、家庭用マッサージ器も医療機器に含まれます。

医療は全人類が必要とする保健サービスであり、それを支えているのが医療機器です。そのため医療機器メーカーで働くと、国内外で活躍することができ、「人の健康と命を支えている」というやりがいを得ることができます。

この記事では、医療機器業界のビジネスモデルや有力中心企業、業界の特徴、最近の動向、給与などを紹介します。

医療機器メーカーのビジネスモデル~どうやって稼いでいるのか

医療機器サブ1

医療機器メーカーのビジネスモデルを紹介します。

ビジネス上の最も大きなくくりは、ものづくり、となります。医療機器メーカーも、自動車メーカーや衣料品メーカー同様、客が必要とするものや客に喜ばれるものを開発、製造して販売します。

医療機器メーカーのビジネスモデルで最も特徴的なのは、客です。

ビジネスモデルを理解、分析するとき、「誰が客なのか」ということを知る必要があります。客が一般消費者であればBtoC型ビジネスモデルになりますし、客が企業などであればBtoB型ビジネスモデルにくくられます。

医療機器メーカーの客は、最終的には患者、つまり一般消費者なのですが、実際の重要顧客は医師と、病院やクリニックなどの医療機関になります。医療機器を買うのは医療機関で、購入する医療機器を選定するのは医師が多いからです。

では医療機器メーカーはBtoB型ビジネスモデルなのかというと、それほど単純ではありません。

なぜなら、医療機器は原則、厚生労働省の認可を得ないと販売できないからです。医療機器は医薬品医療機器等法(以下、薬機法)の規制を受けます。

したがって医療機器メーカーは、客というわけではない厚生労働省にも十分目配りする必要があります。

以上のことをまとめると、医療機器メーカーのビジネスモデルはこのようになります。

●医療機器メーカーのビジネスモデルは、最終顧客の患者(一般消費者)を見据えつつ、医師、医療機関、厚生労働省に評価されるものをつくること

対象製品が多く、相互互換性が低い

医療機器メーカーのビジネスモデルを理解するうえで注意しなければならないのは、対象製品が多く、それらの製品の相互互換性が低いという特徴です。そのため医療機器メーカーは少量多品種型の開発体制や供給体制を取ることになり、それはコスト高要因になります。

例えば、胃内視鏡(いわゆる胃カメラ)は食道、胃、十二指腸しかみることができません。つまり食道、胃、十二指腸の病気の治療にしか使われず、利用者も消化器科や内科の医師に限られます。

また、電気メスは外科医が頻繁に使いますが、内科医はまったく使いません。

医療機器メーカーは、ある診療科のある病気のある治療に使う製品をピンポイントで研究、開発、製造しなければなりません。

越えなければならない壁が厚く、高く、しかも多い

医療機器は厚生労働省の許可・登録・承認を得ないと製造・販売することはできません。そして国民の健康と命がかかっている製品なので、同省は簡単には新しい医療機器を認可しません。

さらに、厚生労働省の認可が下りても、それを医師や医療機関が使うとは限りません。医師は医療機器選びにおいて保守的なので、新製品に圧倒的な優位性がないと、従来製品から移行することはないでしょう。医療機器メーカーの営業担当者は学会で発表したり、医師に直接PRしたりして新製品の優位性を知らせなければなりません。

医療機器メーカーが越えなければならない壁は、厚く、高く、しかもその数は多いのです。医療機器ビジネスは「難しい」といえます。

一度支持されれば長く利益を確保できる

対象製品が多く相互互換性が低く少量多品種供給を迫られる医療機器メーカーですが、その代り、一度医師たちから強い支持を得られるとその製品を長く販売できる、というビジネス上のメリットがあります。

医師は、医療機器選びにおいて保守的になる傾向があります。それは、先輩医師が使っている医療機器や長年使われている医療機器は「患者を治す実績」があるとみなされるからです。目の前に病気に苦しんでいる患者がいて、実績のある医療機器と最新の医療機器を選択できたら、多くの医師は前者を選ぶでしょう。

そのため「この医療機器ならこの医療機器メーカー」という評判や実績やブランドを確立できると、その領域はその医療機器メーカーの独壇場となり、長い期間にわたって大きな利益を得ることができます。

有力中心企業のオリンパス、テルモ、ニプロを比較する

医療機器業界はすそ野が広く、大企業から中堅企業、中小企業、小規模事業者まで存在します。

そのなかで有力中心企業とみなされているのは、オリンパス株式会社、テルモ株式会社、ニプロ株式会社です。

この3社を比較することで、この業界の様子を探ってみます。

3社の会社概要、メインの商品、企業理念の紹介

3社の会社概要は以下のとおりです。

医療機器業界比較表

3社の企業理念は以下のとおりです。

  • ニプロ:未来に向かって、世界の人々の健康を支え、医療ニーズに応える商品、技術および事業の創造革新を行い、社会に貢献し、自己実現を図る
  • テルモ:医療の分野において価値ある商品とサービスを提供し、医療を支える人・受ける人双方の信頼に応え、社会に貢献
  • オリンパス:最先端の医療や生命科学の研究に貢献する。人々の安全を守り、安心して暮らせる社会を支える。事業活動を通じて世界の人々、社会の根源的な要請に応え、広く社会に貢献する。

見事に3社とも「医療」と「社会貢献」を理念に盛り込んでいます。

3社の売上高と営業利益と純利益の比較

3社の直近3年間の売上高と営業利益と純利益をみてみます。

医療機器業界売上高比較表
医療機器業界純利益比較表

売上高はオリンパスが他の2社を圧倒していますが、営業利益では3年連続でテルモが1位になっています。2020年度の純利益はテルモが他の2社を圧倒し、オリンパスはニプロにも抜かれています。オリンパスは2018年度も純利益で3位でした。

オリンパスは売上高の割に純利益が少なく、非効率な稼ぎ方をしています。一方テルモは、売上高の割に純利益が大きく効率よく稼いでいます。

医療機器業界の特徴

医療機器業界の特徴の1つに、領域が少し異なるとまったく競合しない、というものがあります。

例えばオリンパスは内視鏡を得意としていて、そのライバルには富士フイルムなどがありますが、しかしテルモとニプロはライバルになっていません。

領域が少し異なるとまったく競合しないという特徴は、医療機器の種類が多岐にわたることから生まれています。

オリンパス、テルモ、ニプロの主力製品をみると、その特徴がくっきり表れています。

■オリンパスの主力製品

●内視鏡システム●内視鏡ビデオスコープシステム●内視鏡処置具●内視鏡統合ビデオシステム●外科手術用内視鏡システム●外科手術用エネルギーデバイス●レーザー走査型顕微鏡●倒立型顕微鏡●正立顕微鏡●工業用内視鏡●レーザー顕微鏡など

■テルモの主力製品

●血管内治療製品●肝臓がんの化学療法「インターベンショナルオンコロジー」製品●脳血管カテーテル治療製品●人工心肺装置●体外式膜型人工肺(ECMO)●人工血管●ステントグラフト●高機能薬剤投与システム関連製品●血液・細胞テクノロジー製品など

■ニプロの主力製品

●透析用監視装置●血液回路●補助人工心臓●PTCAバルーンカテーテル●血糖自己測定器●シリンジ●輸液セットなど

この3社は「大手3社」といえますが、バッティングしている製品は多くありません。

他の業界ではこうした現象はあまりみられません。例えば自動車業界の大手3社であるトヨタ、ホンダ、日産はほとんどすべての製品(自動車)がバッティングしています。

医療機器業界の最近の動向~マスコミ報道から

医療機器サブ2

最近のマスコミ報道から、医療機器業界の動向を探ってみます。

日本経済新聞は2021年11月5日に「オリンパス、今期純利益8倍超、検査再開で内視鏡好調」という記事を掲載しました。2022年3月期(2021年度)の連結純利益が1,090億円で、前期比の8倍を超えました。

2020年度は多くの医療機関が新型コロナによって検査を手控えていましたが、2021年度に入って再開しました。それでオリンパスの内視鏡や治療機器がよく売れるようになったのです。

一方のテルモは、日本経済新聞に「最高益テルモに死角 『攻め』の投資、欧米勢に後手」と指摘されています。この記事は2021年11月に紹介され、このころ同社の株価は高値圏で推移していました。利益率が高い医療機器の販売が伸びていたことが市場で好感されたのです。

株価の上昇はよいことなのですが、しかし日経は、世界の同業大手と比べるとM&A(合併・買収)といった攻めの投資が見劣りするとみています。

日経には「よい企業だけに、もっと攻めて欲しい」という想いがあるようです。

ニプロについては、透析患者向けの人工腎臓「ダイアライザ」を一貫生産する工場を秋田県に新設することが報じられています。

給与水準

オリンパス、テルモ、ニプロの給与水準をみてみましょう。

オリンパス(2020年度有価証券報告書から)

平均年齢42.79歳、平均勤続年数14.41年、平均年間給与8,693,471円

テルモ(2020年度有価証券報告書から)

平均年齢40.5歳、平均勤続年数17.2年、平均年間給与7,441,630円

ニプロ(2020年度有価証券報告書から)

平均年齢40.7歳、平均勤続年数12.9年、平均年間給与6,185,000円

平均年間給与だけみると、最高のオリンパス(8,693,471円)と最低のニプロ(6,185,000円)は250万円以上の差がありますが、平均年齢はオリンパスのほうが2歳以上高くなっています。

ただそれを加味しても、オリンパスは高給といえます。

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