精密機器業界を研究する【内定までの業界研究#17】 - ATLAS(アトラス)〜未来をつくるリーダーへの就活キャリアサイト〜

この記事では、メーカーのなかでも精密機器メーカーについて解説します。

就活で業界研究を進めている学生のなかには、精密機器業界を「つかみどころがない」と感じている人がいるのではないでしょうか。機械の多くは精密なものですし、世の中にはさまざまな用途の精密機器が存在します。何をもって精密機器と呼ぶのかは意見がわかれるところです。

ただ精密機器を「計測機器、光学機器、時計など」と表記することがあります。そこで本稿でも、この3つの機械をつくっている企業を精密機器業界の代表選手として紹介しながら、この業界の特徴を探っていきます。

精密機器メーカーのビジネスモデル~どうやって稼いでいるのか

精密機器サブ1

精密機器メーカーのビジネスモデルを紹介することは簡単ではありません。なぜなら精密機器業界は、計測機器業界、光学機器業界、時計業界、医療機器業界、事務機器業界、電子機器業界などに細分化され、それぞれ独自の世界を持っているからです。

そこでここでは以下の3社のビジネスモデルをみていくことにします。

  • 計測機器メーカー代表:株式会社キーエンス(以下、キーエンス)
  • 光学機器メーカー代表:キャノン株式会社(以下、キャノン)
  • 時計メーカー代表:セイコーホールディングス株式会社(以下、セイコー)

なお3社の会社概要などについては後段で紹介します。

計測機器:キーエンスのビジネスモデル

キーエンスはマスコミで、「メーカーなのに年収2,000万円も可能」と騒がれたことがあります。それを可能にしたのが、営業利益率50%超えという驚異の実績です。

キーエンスの企業研究をした就活生は、一体どのようなビジネスモデルを構築すればそれほど優れた業績をあげることができるのか、と感じたのではないでしょうか。

キーエンスのビジネスモデルで注目されるのは、コスト・リーダーシップ戦略と差別化戦略です。

コスト・リーダーシップ戦略は、コストを徹底的に圧縮したうえで製品価格を業界の平均に設定して売る方法。差別化戦略は、顧客が重視するニーズにおいて独自技術で付加価値を持たせる方法。

実はキーエンスがつくっている製品は他社もつくっています。そして同社は多くの製品で後発組になっています。

キーエンスは後発組として参入するとき、安い価格で売ります。そして製品力を高めて他社の類似製品との差別化を図り、徐々に価格を上げていきます。顧客も性能が上がっているので、製品価格が上がっても納得します。

キーエンスは寸法測定器や3次元測定器などの測定機器の他に3Dプリンタやバーコードリーダといった精密機器もつくっています。どれも珍しい製品ではありませんが、その優れた性能や使いやすさから、産業界でキーエンス・ブランドは圧倒的な支持を得ています。

光学機器:キャノンのビジネスモデル

光学機器とは、光の作用や性質を利用した機械のことで、例えばカメラは光をレンズで集めて画像をつくる機械なので光学機器ですし、顕微鏡も光を使って肉眼でみえないものをみる光学機器です。

「カメラのキヤノン」は光学機器業界のリーディングカンパニーですが、この会社はもはやカメラだけでは語ることができません。

キヤノンがつくる機械は、オフィス、医療機関、半導体工場、テレビ局、インターネットなどで使われています。

キャノンのビジネスモデルは、光学機器づくりやカメラづくりで培った技術を他の製品に応用して次々と高性能製品を生み出していく、というものです。

そしてキャノンほどの大企業になると、M&A(合併・買収)を活用して技術やノウハウを入手する手法も採ることができます。NECや東芝から、高い技術力を誇る子会社を買収したことがあります。

自社で技術を高めながら、技術の修得に時間がかかるようならM&Aで技術を買って成長スピードを速めていく――これがキャノンのビジネスモデルです。

時計:セイコーのビジネスモデル

「世界のセイコー」といわれるように、セイコーのビジネスモデルにおいてブランド力の活用は特筆すべきものがあります。

キャノンとセイコーは企業の特徴が似ています。キャノンに世界1のカメラがあるように、セイコーには世界1の腕時計があります。そしてキャノンがカメラで培った技術力を他の製品に応用したように、セイコーは腕時計で蓄積した技術力を電子デバイス事業やシステムソリューション事業に応用しています。

セイコーのビジネスモデルを「裏」からみると、「時計だけをつくっていては生き残ることはできない」ことがわかります。これはセイコーのライバルメーカーであるシチズン時計株式会社についてもいえ、同社も腕時計の他に工作機械や自動車部品、電子機器などをつくっています。

精密機器業界は「○○といえばこの会社」といわれる企業でも、積極的にその他の製品をつくる傾向があります。

キーエンス、キヤノン、セイコーを比較する

3社の会社概要は以下のとおりです。

精密機器業界比較表

会社概要をみただけでも3社の性質がまったく異なることがわかります。

キーンスは1974年設立の新しめの企業であり、大阪市に本社があります。大企業やメガ企業は東京志向が強いだけに、これはかなり異質に感じます。そして連結従業員数は1万人に届いていません。

一方キャノンは資本金が1,700億円を超え、連結従業員数は18万人を超えます。そして本社はものづくりの街、東京都大田区にあります。

セイコーの本社は銀座1丁目にあり、創業1881年は明治時代です。歴史と格式と伝統も、セイコー・ブランドを支えています。

そしてキーエンスについてはもう1つ特筆すべきことがあります。それは価総額の高さです。同社の2022年3月30日現在の時価総額は13,921,207,832,160円、つまり約14兆円です。これはトヨタ自動車、ソニーグループに次ぐ国内第3位の額です。ちなみにキャノンは36位、セイコーは100位以内に入っていません。

これだけ性質が違うと、就活生が精密機器業界に的を絞ったとしても、この3社からどれを選ぶかはとても悩むでしょう。

3社の理念

3社の理念を紹介します。

  • キーエンス:すべては付加価値の創造のために
  • キャノン:共生~文化、習慣、言語、民族などの違いを問わず、すべての人類が末永く共に生き、共に働き、幸せに暮らしていける社会を目指す
  • セイコー:革新へのあくなき挑戦で、人々と社会に信頼と感動をもたらし、世界中が笑顔であふれる未来を創る

キーエンスは自社の強みをそのまま理念にしている印象があります。

キャノンは理念のなかに世界観を持っています。

セイコーの理念のなかにある「笑顔」というワードには、この会社の品格に通じるものを感じます。

3社の売上高と営業利益と純利益の比較

3社の直近3年間の売上高と営業利益と純利益をみてみます。

キーエンスとキャノンは2018~2020年度の数字ですが、セイコーのみ最新の2020年度分の公表が遅れているので2017~2019年度の数字を紹介します(2022年3月現在)。

精密機器業界売上高比較表
精密機器業界営業利益比較表
精密機器業界純利益比較表

精密機器業界の特徴

先ほど、キーエンスは国内3位の時価総額であると紹介しましたが、売上高ではキヤノンにまったく及びません。2020年度で比較すると、キヤノンの売上高はキーエンスの6倍の規模になります。

ところが営業利益になると逆転し、2020年度ではキーエンスのそれはキャノンの2.5倍に達します。キーエンスの営業利益率は驚異的といってよいでしょう。

そしてキーエンスは、売上高、営業利益、純利益ともにあまり上下していません。高い営業利益率に加えて経営の安定性でも優れています。

そして一般消費者の知名度やブランド力では、キャノンとセイコーは肩を並べている印象があるかもしれませんが企業規模はまったく異なります。

セイコーも2,000億円企業なので大企業、優良企業なのですがこの3社を並べてしまうと見劣りしてしまいます。

ただ就活の成否は、企業規模だけでは決まりません。特に精密機器業界はメーカーごとにつくっているものがまったく異なるので、製品に興味や愛着が持てるかどうかも気にしたいところです。

精密機器業界の最近の動向~マスコミ報道から

精密機器サブ2

最近のマスコミ報道から、電機業界の動向を探ってみます。

キーエンスの営業手法は、経済系マスコミが注目しています。2022年3月10日付けの日本経済新聞の記事「キーエンス、神出鬼没の直接営業 シェア獲得の武器に」では、キーエンスの営業担当者の御用聞きの姿勢を紹介しています。

キーエンスの営業担当者は、顧客であるメーカーに自社製品を納入するとき、去り際に「他にお困りの方はいませんか」と尋ねます。そして実際に困っている他部署を紹介してもらい、そこでも自社製品を売ってしまいます。

キーエンスの営業担当者は、顧客が他社製品を使っていても、そのフットワークの軽さで自社製品に置き換えていきます。

精密機器の販売では、性能も去ることながら、営業担当者の売り方も重要になります。精密機器は、それを使わないと測定や加工ができない重要な工程で使われます。そのため精密機器メーカーにはアフターフォローが求められます。

キーエンスの営業担当者のフットワークの軽さは、精密機器メーカーとして当然のことと考えることもできます。

キャノンの社長は2022年3月に、カメラなどのイメージング部門の売上高を2025年までに1兆円にすると表明しました。キヤノンの売上高は先ほどみたとおり、3兆兆円程度なのでこれはかなり高い目標です。そして注目すべきは、それをカメラで達成しようとしていることです。

「カメラのキャノン」はこれまで多角化を進めてさまざまな精密機器をつくってきましたが、ここでカメラに原点回帰するわけです。そしてイメージング事業でも特に力を入れるのは監視カメラです。社会が必要としているものをとらえて、それを精密機器で実現していくのがキャノンの手法です。

給与水準

キーエンス、キヤノン、セイコーの給与水準を確認します

キーエンス(2020年度有価証券報告書)

平均年齢35.8歳、平均勤続年数12.2年、平均年間給与17,517,949円

キャノン(2020年度有価証券報告書)

平均年齢44.9歳、平均勤続年数20.1年、平均年間給与7,597,287円

セイコー(2019年度有価証券報告書)

平均年齢45.7歳、平均勤続年数22.0年、平均年間給与8,241,904円

キーエンスは35.8歳で年収1,700万円を超えます。これが営業利益率50%超の威力といえます。

しかしキャノンの760万円もセイコーの820万円もとても優れた金額であり、十分やりがいにつながるでしょう。

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