食品・飲料業界を研究する【内定までの業界研究#19】 - ATLAS(アトラス)〜未来をつくるリーダーへの就活キャリアサイト〜

この記事では、メーカーのなかでも食品・飲料メーカーについて解説します。

食べることと飲むことは人が生きていくうえで欠かせないだけでなく、健康を維持増進するのにも必要です。また、飲食を趣味や娯楽の一部と考えている人もいるので、食品・飲料業界にはエンターテインメント要素もあります。

この業界は世界の重要産業であり、そのため就活を控えた大学生も注目しているはずです。

この記事では、食品・飲料業界のビジネスモデルや有力中心企業、業界の特徴、最近の動向、給与などを紹介します。

食品・飲料メーカーのビジネスモデル~どうやって稼いでいるのか

食品・飲料メーカーのビジネスモデルは、自然に存在するものや農業や水産業で生産したものを加工して、おいしくて体によいものにして販売する、という内容になっています。

そして、人々は飲食に関してかなり贅沢になっているので、食品・飲料メーカーはそれらの人々を楽しませなければなりません。また、高い商品は売りにくいのでコストダウンを進めていく必要があります。

こうした要素をビジネスモデルに盛り込んでいかなければならないでしょう。

さらに食品・飲料メーカーがつくるものは必ず口のなかから体のなかに入って消化・吸収されるので安全でなければなりません。

したがって食品・飲料業界で企業が差別化を図るには、0)安全を絶対条件として、1)食材、2)生産、3)加工、4)おいしさ、5)健康、6)楽しさ、7)安さの7点を工夫していくことになります。

0)安全で差別化を図るビジネスモデルとは

安全は食品・飲料メーカーが死守しなければならないものですが、守っていない企業は実は少なくありません。食中毒事故・事件、消費期限・賞味期限問題、異物混入、産地偽装といった問題は枚挙にいとまがありません。

そのため、安心安全の食をつくったり提供したりすることは十分他社と差別化できます。

1)食材で差別化を図るビジネスモデルとは

加工食品の原料や食材を気にする消費者が増えてきました。例えば、北海道産のジャガイモや牛乳、各地のブランド和牛、有機野菜、優れた養殖技術で育てた魚介類といった原料・食材を使っていることをアピールすると、高値で売れることがあります。

2)生産で差別化を図るビジネスモデルとは

かつては安物の代名詞のような存在だった冷凍食品ですが、今は高級商品が数多くラインナップされています。それは冷凍技術が進化して鮮度を保てるようになったからで、焼き立てのステーキを冷凍にしたものや冷凍すしなども販売されています。

また、ロボットや製造機械で加工食品をつくることで驚異的なコストダウンが実現できるようになりました。「手づくりよりおいしい機械製造食品」も多数存在します。おいしくて安い食品が売れないはずがありません。

生産方法や生産工程を見直すことは食品・飲料メーカーの重要な仕事になっています。例えば、食品・飲料メーカーが農場や農家と直接契約して食材や材料を調達することもありますし、生産に自ら乗り出す食品・飲料メーカーもあります。

3)加工で差別化を図るビジネスモデルとは

食品も飲料も、原材料を加工しないとつくることができません。例えば、冷凍餃子をつくるにはキャベツを千切りしなければなりませんし、果肉を入れた飲料をつくるには果物を壊さないように潰さなければなりません。

高度化する加工ニーズに対応するため、生産技術が向上します。

4)おいしさで差別化を図るビジネスモデルとは

消費者のおいしさへのこだわりは際限がなく、おいしい食にお金を使うことを惜しまない人は多くいます。

食材にこだわることや生産技術や加工技術を向上させることは、すべておいしい食品・飲料をつくるためといっても過言ではありません。

5)健康で差別化を図るビジネスモデルとは

消費者庁などが効果や安全性などを審査する特定保健用食品(トクホ)や、国に届け出る必要がある機能性表示食品が人気を集めるのは、消費者が食品・飲料においしさと栄養だけでなく健康要素も求めているからです。

トマトのリコピンや緑茶のカテキン、さまざまな乳酸菌など、健康成分といわれるものを食品・飲料に配合すると訴求力が高まります。

食品・飲料ビジネスでは健康の追求も欠かせません。

6)楽しさで差別化を図るビジネスモデルとは

食品・飲料は舌の味覚だけで味わうのではなく、視覚、嗅覚でも堪能できます。食感のよさも商品の人気を高める要因になるので、口腔内の触感も重要になります。

また、キャンプで食べる食事や「10秒チャージ」など、食べる場所や飲むシチュエーションも食事の楽しさを演出します。

食品・飲料メーカーは消費者が飲み食いしているところから「逆算」して食品・飲料をつくっていく必要があります。

7)安さで差別化を図るビジネスモデルとは

日本人は安いものが大好きなので、安い食品・飲料を提供できるとライバル会社に勝つことができます。安さを実現するためには食材や原料の調達、生産、加工を常に見直して高度化させていく必要があります。

安さを実現しないと、食品・飲料メーカーは小売業に負けてしまうかもしれません。小売業は今、猛烈な勢いでプライベートブランドの商品ラインナップを充実させて安さを実現させているからです。

小売業のプライベートブランド食品・飲料も結局は食品・飲料メーカーが製造しているので、価格決定権が奪われると利益率が低下してしまい「儲けられない企業体質」になってしまいます。

有力中心企業はアサヒ、味の素、ヤクルト

食品飲料サブ1

食品・飲料メーカーの有力中心企業を選ぶことは簡単ではありません。なぜなら食品・飲料業界は分野やジャンルが多岐にわたるので、単純に売上高や純利益で「有力」や「中心」を決めることができないからです。

例えば、食品メーカーで時価総額が最も大きいのは、4.7兆円を誇る日本たばこ産業です。しかし同社の時価総額が大きいのは、たばこ事業のおかげなので、これを食品・飲料メーカーの代表選手とみなすことはできないでしょう。

そこでこの記事では、時価総額が大きく、なおかつ消費者になじみ深い食品・飲料をつくっていて、特徴的な事業を展開しているアサヒグループホールディングス(時価総額2.4兆円)、味の素(同1.7兆円)、ヤクルト本社(同1兆円)を有力中心企業として研究していきます。

3社の会社概要、メーンの商品、企業理念の紹介

3社の会社概要は以下のとおりです。

飲料・食品業界比較表

アサヒの社名には「グループ」が入り、ヤクルトの社名には「本社」が入るので注意してください。

アサヒといえばビール、味の素といえば調味料、ヤクルトといえば健康飲料というイメージが強いと思いますが、3社とも別分野に進出して、しかもその別分野でも存在感を示しています。

例えばアサヒにはカルピス、三ツ矢サイダー、ウィルキンソンといった飲料ブランドがあり、味の素は冷凍食品の売り上げを伸ばしていて、ヤクルトは化粧品や医薬の分野に進出しています。

いずれも本業で培った生産技術や加工技術、安全衛生管理技術などを応用して他分野に進出して成功させています。

3社の企業理念はこのようになっています。

●アサヒ:期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造

●味の素:地球的な視野にたち、食と健康、そして、明日のよりよい生活に貢献する

●ヤクルト:生命科学の追求を基盤として、世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献する

3社とも理念のなかに生活を盛り込んでいます。食品・飲料メーカーにとって消費者の生活を考えることがどれだけ重要であるかがわかります。

アサヒはおいしさの追求を強調しています。

味の素は地球規模で、ヤクルトは世界規模で社会に貢献していくと宣言しています。食品・飲料大手はグローバル展開を進めていかないと生き残れないでしょう。

ヤクルトは、創始者が医学博士(代田稔氏)であるためと推測できますが、理念のなかに生命科学という文言が入っています。理系の人が起業した会社らしい理念です。

3社の売上高と営業利益と純利益の比較

3社の直近3年間の売上高と営業利益と純利益をみてみます。ただ味の素とヤクルトは本稿執筆時(2022年4月)にはまだ2021年度決算が発表されていないため2年分となります。

飲料・食品業界売上高比較表
飲料・食品業界営業利益比較表
飲料・食品業界純利益比較表

アサヒの2020年度の売上高は、味の素の2倍、ヤクルトの5倍となっています。しかし純利益をみるとそれほどの開きはありません。ここからヤクルトの利益率が相当高いことがわかります。2019年度の純利益では、ヤクルトが味の素を抜いています。

3社に共通しているのは、売上と利益の安定性です。これは食品・飲料ビジネスの特徴でもあります。

消費者は食品・飲料の消費は案外保守的で一度「これがいい」と感じたらよほどのことがない限りそれを買い続けてくれます。

そして食品・飲料は毎日必要になるので、不況の影響を受けにくい業態といえます。しかも好景気のときは高額・高級商品を売って利益率を高めることができます。

アサヒの売上高の3年間の推移をみると、コロナ禍が起きてもでもそれほど落ち込まず(2020年度)、コロナ禍が定着するとすぐに回復していることがわかります(2021年度)。

食品・飲料業界の特徴

食品・飲料業界の大手企業の特徴は、守備範囲が広いことです。

食品メーカーも飲料をつくり、飲料メーカーも食品事業に進出しています。幅広い商品ラインナップを展開できるのは、1つの商品の製造で培ったスキルや技術を、他の食品・飲料の製造でも使えるからです。例えば雑菌が付着しない無菌工場をつくる技術は、どの食品製造にもどの飲料製造にも有効です。

そして食品・飲料業界には、生産者である上流部門と小売・販売の下流部門と連携しなければならない、という特徴もあります。

例えば、トマトジュースをつくっている飲料メーカーはトマト農家と、ポテトチップスをつくっている菓子メーカーはジャガイモ農家とつながらなければなりません。また、ビールや清涼飲料水などはキレイな水が必要になるので、地域の自然環境を守る必要もあります。このような「上流部門のケア」ができる食品・飲料メーカーは強いでしょう。

下流部門との連携では、食品・飲料メーカーには、小売企業に価格決定権を握られる懸念があります。

食品・飲料メーカーが独自色の強い商品を出さないと、小売企業はすぐに他社の安くてよい商品を取り扱います。例えば缶コーヒーは多くの飲料メーカーがつくっていて差別化が難しい商品の1つです。そのため小売店の特売品になりやすく、飲料メーカーは薄利多売が強いられます。缶コーヒーの広告が多いのは、イメージで差別化を図る必要があるからです。

食品・飲料業界の最近の動向~マスコミ報道から

食品飲料サブ2

最近のマスコミ報道から、食品・飲料業界の動向を探ってみます。

2022年3月27日付けの日本経済新聞に「『家飲みもビール』競う アサヒはスーパードライ刷新」という記事が掲載されました。2020年にビールの酒税が減税されて需要増が期待されるため、大手4社がビール商品に磨きをかけているという内容です。

なかでも注目を集めているのがアサヒのスーパードライで、1987年の発売開始以来初めて刷新しました。アサヒはスーパードライの製法や酵母を調整し直して飲み応えを向上させました。マーケティング・キャンペーンにも力を入れていて、主要都市に移動式のコンセプトカーを配置したり、工場に併設したミュージアムの内容を充実させたりしています。

ビール離れのトレンドを巻き返す好機とみているのでしょう。

味の素は2022年3月に、チャーハンなどの冷凍米飯をつくっている大阪工場での生産を終了させ千葉工場に集約すると発表しました。そして千葉工場は19億円を投じて新しい炊飯ラインを導入します。

味の素は選択と集中を進めることで、投下資本利益率(ROIC)を重視する構造改革を進めています。そしてこのROIC戦略は稼ぐ力を強化するだけでなく、工場が排出する二酸化炭素の量を減らすことにも貢献します。

給与水準

アサヒ、味の素、ヤクルトの給与水準をみていきましょう。

アサヒ(2021年度有価証券報告書から)

平均年齢46.2歳、平均勤続年数17.0年、平均年間給与11,146,637円

味の素(2020年度有価証券報告書から)

平均年齢44.1歳、平均勤続年数20.2年、平均年間給与9,971,519円

ヤクルト(2020年度有価証券報告書から)

平均年齢42.1歳、平均勤続年数18.3年、平均年間給与7,803,543円

ヤクルトの平均年間給与が見劣りする印象を受けるかもしれませんが、他の2社に比べて平均年齢が低いのでやむをえないでしょう。

アサヒは46歳で1千万円プレイヤーになることができます。味の素も40代で年収1千万円に届くのは確実なようです。

総じて「一流企業の給与額」といえるのではないでしょうか。

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