2023/06/05
【PwC】多様性を尊重する、これからのコンサル
三井物産は五大総合商社の中で最も古くからの歴史を持つ企業である。1876年、開国後明治政府が近代化を推し進めていく中で、衣類・石炭・生活用品といった輸出入の主力となる分野を中心とした貿易会社としてその長い歴史は始まった。封建制度が解体され明治維新の施策で国内が変化していくと共に、軽工業・農業を中心とした技術革新にも大きく貢献したと言われている。法人の組織としては当時の旧三井物産と現在の三井物産は全くの別会社という位置づけにはなるものの、国内トップの貿易会社であった潮流を汲む形で企業としても発展していくことになる。同業の三菱商事の英語表記が”Mitsubishi Corporation”であることは有名であるが、三井物産の英語表記は”MITSUI & CO., LTD.”である。名称としてCOとの間を &で繋ぐのは珍しいが、これは「会社(Company)」と「仲間(Company)」が対等であるという意味が込められていると言われており、「人の三井」と言うように個を尊重した集合体としての性格を反映している。
組織形態としては、三菱商事や伊藤忠商事が明確なカンパニー制の形態を取っているのに対し、三井物産は直接事業部が紐づく形になっている。実質的にはオペレーティングセグメントがカンパニーに近い役割を果たしていると考えられるが、特徴の一つと言うことができるだろう。
2022年3月期末決算では、最終利益が9,147億円と三菱商事に次ぐ過去最高益を達成しており、2023年も中間決算時点で最終利益見込みが9,800億円と更なる更新が期待されている。特に2018年3月期で昨期と同様に業界全体で好調の中で、(丸紅・豊田通商含む)七大商社のうち唯一過去最高益を逃した実績からも、直近の好調は意味深いものになった。事業ポートフォリオとしては伝統的に資源分野が強いとされる三井物産だが、直近の好調も資源価格の高騰や為替相場の円安で大きな追い風を受けている。2014年以降コーポレートスローガンに360° business innovationを掲げ、総合商社のラーメンからミサイルまでとも言われる総合商社の事業領域の広さに加えて経営の多角化や社会に変革を与えるプレゼンスを高める方向に動いている。実際中期経営計画2023の中でも「ポートフォリオ経営」が一つのキーワードとなっており、経営資源の効率的な分配と適正化が今後の経営の鍵を握っていくだろう。
近年好調の三井物産がここまでの地位を確立できたのも、総合商社内での特徴を活かしたパフォーマンスができていることが要因の一つになる。今回はそんな三井物産の特徴を、「資源分野」「有機的な事業展開」「人の三井」という3つの側面から見ていきたい。
まずは「資源分野」について。「三井物産は資源分野に強みを持っている。その中でも特に金属資源が強みだ」というのは、総合商社の概況を掴んでいる方であれば当然のように知っていることであろう。事実、2022年3月期決算資料のオペレーティング・セグメント別内訳によると、金属資源のみで売上総収益の約34.4%・エネルギーも含めると約47.1%の割合を占めている。これは五大商社の中でいずれも同年で最大の配分となっている。資源分野はいわゆる川上から川下までという総合商社のバリューチェーン構築の根幹をなす分野であり、インフラ事業等の絡みを持たせたシナジー効果も期待されている。コロナ禍に入り決算指標にマイナスの影響を受けた際にも、経営層のインタビュー記事では「立て直しには資源分野の回復が重要」という趣旨の記載が複数見受けられたことからも、強みである資源分野でのプレゼンス維持に重きを置いていることがうかがえる。もちろんポートフォリオ経営の中での利益配分の適正化は経営課題として抱えながらも、エネルギートランジションの主導を始めとした強みをより伸ばす方向の施策は今後も続いていくことだろう。
続いて「有機的な事業展開」について。中期経営計画2023では「変革と成長」がキーワードとなっているが、実現のためには収益力の強化と新規事業領域の拡大を両軸で進めることが求められている。そのための方針として掲げているのが、「既存コア事業の徹底強化、周辺事業との有機的連携を通じた良質な事業群の構築」だ。各セグメントや事業の強化だけでなく、統合的に顧客の様々なニーズを満たすソリューションプロバイダとしての立場をより推し進めている方針と言えるだろう。例えば、エネルギーの分野で言うとモビリティ・脱炭素・カーボンソリューションといった各要素を統合しエネルギートランジションを強化していくことが挙げられる。複数の事業クロスオーバーは、あらゆる分野で技術進展が進んでいる今だからこそ活かされる面も増えてくるはずである。時流が変化していく中で、よりオーガナイザーとしての立場を今後も強化していくことに期待していきたい。
3つ目の「人の三井」について。中期経営計画2023に記載の人材戦略では、変革と成長のためには「個の強化を図る為の人事施策」が必要だと述べられている。この内容はしばしば「組織の三菱」と対比されるが、人の三井というのは何も「集団よりも個人を優先する」という意味ではないことは注意したい。株式会社朋栄の現取締役会長である槍田松榮氏は、三井物産取締役会長時代に、「三井物産は創業時より何より人材育成を大事にする会社」というのを「人の三井」の解釈として説明している。具体的な人材育成施策については後述するが、より専門性に重点を置いた施策を今後推し進めていくという方針が提示されている。この点、総合力・経営人材といった人材テーマを持っている三菱商事などとは性格が異なるところになる。個々の人の持つ価値が高くなれば、それだけ会社の潜在能力も高まっていく。総合商社の競争の源泉はヒトであり、人の三井としての積極的な人材投資は今後も競争力強化に繋がっていくことだろう。
先述の通り、三井物産は金属資源に強みを持つ企業であることから、関連した事例が多くなっている
直近でやはり話題のトピックと言えばモザンビークLNGプロジェクトである。2019年6月に最終投資判断を実行した同プロジェクトではあるが、2022年11月時点では進捗がストップしている状況になる。世界の低炭素化・エネルギートランジションの中でLNGの役割は増してきているが、現地の治安という総合商社ではよくあるリスクをダイレクトに受けているのが現状だ。資源分野では多くの実績を持つ三井物産だからこそ、今回のように外部の変動要因でうまくいかなくなった際の対応並びに横展開の方針立てについては今後も注目したいところだろう。また、カントリーリスク絡みで言うと、ロシア・ウクライナ情勢もエネルギートランジションの投資優先順位を検討していくうえで影響を与えている。そうした中、2022年3月期の決算説明会では「もともと収益が高いアメリカの優先順位は今後も上がっていく」という趣旨の発言もあったことから、ポートフォリオ経営がどう変化していくかもポイントになってくるだろう。また、強みである分野のプレゼンス維持という点がこの部分でも同様に試されていることがうかがえる。
近年の業績好調の中でこうした困難も待ち受けている状況ではあるが、前三井物産会長・ソフトバンクグループ社会取締役会長の飯島彰己氏の有名な言葉に、「修羅場・土壇場・正念場が人を成長させる」というものがある。困難な中で変える力・つなぐ力が重要で、それを繋ぎ合わせるのが”現場力”という趣旨ではあるが、こうした状況下ではまさにこのスタンスが活かされるときではないだろうか。
別の観点で近年話題に上がっているのがヘルスケア分野の動向だ。2021年12月にヒューマンアソシエイツHDを買収し、企業人事・健保向けサービスの強化を図った。2022年1月には、株式会社NOBORIとPSP株式会社の合併によって誕生した新たなPSPの株式を取得し、医用画像管理システムや医療サービス提供の後押しをする体制を整えた。DX分野での進展でも、こうした技術力のある会社との提携は活用が進んでいくことだろう。これらを始めとしたヘルスケア分野の積極的投資により、2011年から出資を行っているアジア最大級の民間病院グループIHH Healthcare Berhadを過去最高益へと導いた。特にアジア圏で著しく人口が増大し、医療の供給が追いついていない傾向にある昨今では、総合商社のオーガナイズ機能・三井物産の現場力をそれぞれ活かしてイノベーションを支えていくことに期待していきたい。三井物産は例えばMitsubishi Developmentのような単体で高収益を出す関連会社がそれほど多くないと指摘されるが、外部企業との統合をうまく推し進めながらポートフォリオ経営の強化に繋げていると言える。単なる病院経営支援だけでなく、ジェネシスヘルスケアへの出資に代表されるような一般消費者に関わるようなヘルスケアも両軸で進めていく方針は今後も続いていくことが予想される。
三井物産の2020年度入社式において、当時の安永竜夫社長は「人が仕事をつくり、仕事が人を磨く」という言葉を取り上げた。「世界は誰かの仕事でできている」という某飲料メーカーのプロモーションは記憶に新しいが、仕事とは人が自らつくりにいくもの・その経験と実績を積んだ個人がまたより高次元の仕事をつくっていくというループは、多面的な側面を持つ総合商社では重要な姿勢と言えるだろう。余談ではあるが、この言葉がそのままタイトルとなった書籍が元会長である故橋本栄一氏著で出版されたこともある。このことばからも推測されるように、三井物産では人材育成の中でも特にOJTを重視している。実際、人材育成ページを参照しても、「先輩・上司による仕事を通じた丁寧な指導(OJT)が人材育成の根幹です。こうした仕事を通じた人材育成を支援・補完するために、人事総務部OFF-JT(研修)を企画・実施しています。」という記載がある。これを見ても、現場実戦(OJT)が主であり、そのパフォーマンス向上のためのサポート的役割として研修等のOFF-JTがあるという位置づけを明確にしていることがうかがえるだろう。事実、「挑戦と創造」を支える価値観の一つに「個から成長を」という言葉があり、人の三井の一員として活躍する土台は大いに備わっていると言える。グローバル展開としては、原則入社7年目までに、海外修業生・部門研修員・ビジネススクール研修員のいずれかで海外へ派遣する制度が整っている。
キャリアの方向性として総合商社では背番号制と呼ばれるように一つの分野で長期的に従事するモデルが一般的とされてきたが、三井物産ではある程度若手のうちから複数領域を経験させる点が特徴になっている。事実採用HPにも、「どの社員もある領域での経験を積んだ後に『異なる事業領域』を経験させ」と記載があり、柔軟性や適応力の高い人材となることが期待されている。先述したように、専門的人材の採用に今後注力している方針が打ち出されていることから、背番号制的なキャリアはそういった人材にシフトしていく可能性も考察できる。配属に関しては人事ブリテンボード制度を導入しており、求人・求職双方のアプローチから自ら手を挙げた形の横断的なジョブチェンジができる環境も備わっている。プロ人材・事業経営人材の棲み分けが進んでいくのか、新卒採用の段階から職種別採用が行われていくのか、今後の動向にも注目が集まる。
コロナ禍以降の直近の働き方に関するトピックとしては、Work-Xの導入が挙げられる。2020年5月に丸の内から大手町へ本社移転を実施した三井物産だが、その前後も含めいわゆる自席+会議室という昔ながらのオフィス環境から脱却しつつある。フリーアドレス制の導入・コミュニケーションエリアの設置・コワーキング拠点の整備といった辺りが具体的なポイントになる。総合商社の中でも歴史が古いことから伝統的な形態のイメージが強い三井物産だが、こうした環境整備からより自由闊達やモダンな雰囲気も多少なりとも浸透していくのかもしれない。
自分史→テストセンター→面接複数回
冬(11月〜2月にわたって複数回)、春(複数回開催)
テストセンター
一般的な人物面接に加え、軽いケース面接を行う
自分史の深掘りが中心
自分史の深掘り、志望動機などが中心
3~6日間程度のインターンを行う
会社説明に加え、グループに分かれてワークを行う
インターンを通過するとその後の面接によばれる
150人程度
東京一工、早慶、その他国立大
150人程度
約550万円(一般的な残業代込み)
企業名 | 三井物産株式会社 |
設立日 | 1947年(昭和22年)7月25日 |
代表者 | 代表取締役社長 安永 竜夫 |
本社住所 | 東京都千代田区丸の内一丁目1番3号日本生命丸の内ガーデンタワー |
従業員数 | 5,859名 (連結従業員数42,304名) (2018年3月31日現在) |
資本金 | 341,481,648,946円 (2018年3月31日現在) |