キャリア設計のマジック「ハブキャリア」を活用する|キャリア戦略論⑤ - ATLAS(アトラス)〜未来をつくるリーダーへの就活キャリアサイト〜
キャリア設計のマジック「ハブキャリア」を活用する

前記事まで、「キャリア設計」の重要性やキャリアビジョンの設定法についてお伝えしてきました。自分の価値観を軸にキャリアをつくることの大切さをご理解いただけたかと思います。

ここで、「社会に出た後でやりたい仕事が変わってしまったら、どうすればいいのだろう」と心配になる方もいるでしょう。

実際、多くのビジネスリーダーがキャリアチェンジについて悩んでいます。会社で働きはじめてから自分が本当にやりたいことに気づいたり、配属によって希望する仕事に就けなかったりするケースは珍しくないのです。

しかし、キャリアを大きく変化させることは、決して容易ではありません。いわゆる業界や職種の“色”が着くためです。

そこで本記事では、キャリアチェンジを実現するための方法――キャリア設計における“マジック”とも言われる「ハブキャリア」を解説します。

キャリアチェンジにおける大きな壁

キャリアチェンジにおける大きな壁

一般的に、ネクストキャリアは、前職までの経験に強く縛られます。このことは、キャリアデザインをする上で、知っておくべき重要事項です。

具体的には、経理職の採用では経理業務の経験者が求められ、人事職の採用では人事業務の経験者が求められるといったことです。通常、該当する業務の経験者が、即戦力人材として優先的に採用されるためです。採用企業の立場から考えると、ごく自然なことだと言えるでしょう。

しかしそうなると、ある問題が起こります。自分が就きたい仕事にキャリアチェンジするためには、すでにその仕事の経験を持っている必要がある、という矛盾が生じるのです。これがキャリアチェンジにおける大きな壁となります。

場合によっては、大きく年収を下げれば第二新卒扱いで採用をしてもらえるかもしれません。しかし、生活水準などを考えれば、それは現実的には厳しい選択でしょう。

多くの社会人の方が、キャリアチェンジは難しいと悩む理由がここにあります。一般的な転職手法では、キャリアを大きく変えることは困難なのです。キャリアチェンジにまつわる矛盾を解くには、いったいどうすれば良いのでしょうか。

「ハブキャリア」とは何か?

「ハブキャリア」とは何か?

ここで登場するのが、ハブキャリアの活用です。ハブキャリアとは、幅広い業界・職種から「転入」することが可能で、かつ、幅広い業界・職種へ「転出」することが可能な職業のことです。

世界中のフライトの発着拠点となるハブ空港になぞらえて、私たちコンコードではハブキャリアと呼んでいます。

代表的なハブキャリアのひとつは、戦略コンサルタントです。具体的には、マッキンゼーやボストン コンサルティング グループなどの戦略系ファームのコンサルタントが該当します。

戦略系ファームへの入社は新卒でも可能ですが、キャリア採用(中途採用)が大きな割合を占めています。実は、そのキャリア採用における採用基準が、とてもユニークなのです。

戦略系ファームのキャリア採用では、コンサルタント未経験でも入社可能です。MBA(経営学修士)も必要ありません。経営企画やマーケティングなどの実務経験も問われません。

一定水準以上の大学卒であることは求められますが、営業、人事、システムエンジニア、研究職、国家公務員など、非常に幅広いバックグランドから応募可能で、ポテンシャルの高さが評価されれば採用されます。アナウンサーやキャビンアテンダント、知的ゲームのプロプレーヤーから転身するケースもあります。一般的には、該当する業務の経験者が求められるキャリア採用において、とても珍しい採用基準だと言えるでしょう。

さらに注目すべき特徴は、戦略コンサルタントとしてのキャリアを経ると、次の転職で幅広い選択肢が生まれるという点にあります。

戦略コンサルタントは、さまざまな業界の企業に対して、経営者視点での問題解決を数多く経験します。これによって、固有の業界や企業に縛られない“汎用的な”問題解決能力を培うことが可能です。

そのため、戦略コンサル経験者は、多種多様な業界の大手企業やベンチャー企業、NPOにおけるマネジメントポジションで重宝されます。具体的には、経営幹部、経営企画、新規事業開発、マーケティング、M&A、組織開発、業務改革などの役割があげられます。さらには、投資銀行やPEファンド、ベンチャーキャピタルなど、他プロフェッショナルファームに転身する機会もあるのです。

もちろん、戦略コンサルタントを経験しても、法務やシステムエンジニアなどの専門職への転身は難しいですが、経営幹部を目指す方にとっては、とても有益なキャリアであると言えるでしょう。

誤解のないようにお伝えしておくと、アクセンチュアやデロイト トーマツ コンサルティングなどの総合系ファームの戦略コンサルタント、野村総合研究所や三菱総合研究所などの大手シンクタンクの戦略コンサルタントなども、戦略系ファームと同様に経営幹部としての魅力的なネクストキャリアが広がっています。その意味ではハブキャリアの代表例とも言えるかもしれません。しかし、これらの企業のキャリア採用は、経営企画や業務改善などの経験もあわせて求められる傾向があります。そのため、象徴的な例として戦略系ファームを中心にご紹介しています。

次代のハブキャリアとして注目される「デジタル経営人材」

次代のハブキャリアとして注目される「デジタル経営人材」

ハブキャリアは、戦略コンサルタント以外にも、さまざまな種類があります。ビジネス環境によっても変化しますが、次代のハブキャリアとして注目を集めているのが、デジタル系企業の企画職です。「デジタル経営人材」とも呼ばれます。

デジタル系企業の具体例としては、エムスリーやリクルート、楽天などの大手IT企業、AIやIoT事業を軸とする先端的なスタートアップなどが挙げられます。

これらの企業の経営企画、マーケティング、事業開発などのポジションでは、他業界の企画業務の経験者を続々と採用しています。さらに、優秀な若手層についてはポテンシャル採用を積極的に行っている企業も数多くあります。IT業界は定量分析をベースとした問題解決や意思決定が重要ですが、論理的思考能力の高い人材であれば、未経験でもキャッチアップしやすいからです。

注意していただきたいのが「デジタル系企業に勤める≠プログラミングスキルが必要」という点です。もちろん、プログラミングスキルはあった方がより良いですが、企画職で勤める場合には必須ではありません。

デジタル系企業の企画職のネクストキャリアも、戦略コンサルタントと同様に、魅力的な選択肢が幅広く存在しています。現代は、あらゆる業界の企業が、デジタルを活用した既存事業の改革に力を入れています。また、新規事業としてデジタルビジネスに着目しています。そのため、デジタル系企業で企画や事業推進に関する経験を持つ人材は、さまざまな業界で引く手あまたとなっているのです。

そうして経験を積んだ後は、デジタル系のスタートアップはもちろんのこと、消費財やアパレル、医療、総合商社など他業界へ転身することも十分に可能です。また、コンサルティングファームでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連のプロジェクトが非常に多くなっているため、高い評価が得られます。さらには、PEファンドが投資先企業の経営支援を行うために、デジタルマーケティングに精通する人材やDX業務経験を持つ人材の採用をするケースも登場しています。今後は、デジタル経営人材への需要はますます高くなっていくでしょう。

近年のスタートアップは、デジタルなどのテクノロジーを活用した社会課題解決に取り組む企業が多くなっています。起業する際にも、デジタル企業での企画経験はおおいに生きるため、ビジネスリーダーの皆さんからも熱い視線を集めるキャリアになっています。

ハブキャリアはキャリア設計の“マジック”

ハブキャリアはキャリア設計の“マジック”

ハブキャリアを活用すると、大きなキャリアチェンジを無理なく行えます。

一例をあげると、「保険業界の営業職」→「戦略コンサルタント」→「製造業の経営企画職」といった転身が可能です。ハブキャリアを挟むことで、業界も職種も見事に入れ替わっていることがわかります。しかも、この転身を通じて、新しい業務を学びながら、年収を上げ続ける可能性も十分にあるのです。

まるでマジックでも見ているかのようです。このような手法を理解しているか否かで、キャリア戦略の幅が変わり、結果として人生に大きな差が出てしまいます。

昨今、多くのビジネスリーダーがコンサルティング業界を目指しているのは、高い年収を得たいというような短絡的な理由が主ではありません。過去のバックグラウンドの縛りを受けずに、経営幹部ポジションをはじめとする、自身の望むゴールへ至ることができる貴重なキャリアだからなのです。

ハブキャリアである就活を大切にしよう

ハブキャリアはキャリア設計の“マジック”

ここまで、ハブキャリアの価値や具体的な事例について解説してきました。

転職の話が多く出てきたので、「少し先の話かな?」と思った読者の方も多いかもしれませんが、そうではありません。学生の皆さんだからこそ、知っておいていただきたいことなのです。

これから社会に出る皆さんは、経験職種や経験業界による色がついていない状態です。採用企業からはポテンシャルで評価されるので、非常に幅広い業界へ応募することが可能です。商社、銀行、保険、証券、メーカー、IT、サービス、航空、鉄道、ゲーム、コンサル、シンクタンク、官公庁など、さまざまな世界へチャレンジできるでしょう。職種別採用をしている企業でも、希望職種での採用においてポテンシャルを中心に検討してくれます。

このことは、社会人の第一歩となる就職活動が、まさにハブキャリアそのものであるということを意味しています。

冒頭にお話ししたとおり、一度、社会人としての経験を積み始めると、ネクストキャリアに影響が出てきます。だからこそ、そこへ歩み出す就職活動は、とても重要なのです。

同時に、ポテンシャル採用をして、給料を支払いながら育成に多大なコストをかけてくれる採用企業の有り難さも感じることでしょう。入社先企業への感謝を忘れないようにしたいものです。

学生の皆さんには、ファーストキャリアの価値を知り、大切にしていただければと思います。早い時期から自分のキャリアと真剣に向き合い、適切な第一歩を踏み出して、望む人生を切り開いていただくことを切に願っています。

著者

コンコードエグセクティブグループ代表・CEO 渡辺 秀和

2008年、コンコードエグゼクティブグループを設立。外資系戦略コンサルタント、PEファンド、ベンチャーCxOなどへ1000人を越えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援。「日本ヘッドハンター大賞」初代MVPを受賞。2017年に東京大学で開講されたキャリアデザインの授業「キャリア・マーケットデザイン」のコースディレクター。2022年、「キャリア教育プラットフォーム」コンコードアカデミー代表取締役会長就任。 著書 『未来をつくるキャリアの授業』、『ビジネスエリートへのキャリア戦略』は東京大学の教科書に選定された。『新版 コンサル業界大研究』は東大生協本郷書籍部で第1位を獲得。

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